2020年はコロナ禍であってもCVC(コーポレート・ベンチャー・キャピタル)の投資意欲は弱まってはいません。今回は、最新のCVCによる出資事例を紹介し、CVCの動向を解説していきます。
## 1. CVCとは
CVCとは、事業会社が自己資金でファンドを組成し、ベンチャー企業に出資を行っている組織のことです。通常のベンチャーキャピタルとの違いは、以下のとおりです。
・自社の事業と関連の深い企業に出資を行う
・純粋な投資リターンよりも、事業提携などシナジー効果を重視する
CVCは、ベンチャー企業への投資により、純粋な投資リターンよりも、自社への業績寄与が重要になります。そのため、バリュエーションよりも、出資により将来どのようなシナジーを創出できるかをポイントに投資判断を行います。
## 2. コロナ後のCVC設立事例
コロナ後に設立された主なCVCは以下のとおり3社あります。
・ヤマトホールディングス(KURONEKO Innovation Fund)
・セイコーエプソン(エプソンクロスインベストメント)
・エムスリー(1 人 1 円ファンド)
### (1) ヤマトホールディングス(KURONEKO Innovation Fund)
2020年4月1日に、ヤマトホールディングスはKURONEKO Innovation Fundをグローバルブレインと共同でCVCを設立しました。ファンド規模は50億円、運用期間は10年、投資対象ステージはシード、アーリー、ミドルを基本としています。
出資する企業は、物流及びサプライチェーンに変革を起こしうる革新的な技術・ビジネスモデルを有する国内外スタートアップとなります。ヤマトホールディングスの持つ経営資源を組み合わせて、新たな成長モデルの創出を目指しています。
出典:
https://www.yamato-hd.co.jp/news/2019/20200331.html
### (2) セイコーエプソン(エプソンクロスインベストメント)
2020年4月1日に、セイコーエプソンはエプソンクロスインベストメントを、グローバルブレインをジェネラルパートナーとしたCVCを設立しました。ファンド規模は50億円です。
独自のテクノロジーや商品・サービスを有するスタートアップに出資を行い、セイコーエプソンとのシナジーを創出し、持続可能な社会の実現に向け貢献していくことを目的としています。
なお、セイコーエプソンは、「資産の最大活用と協業・オープンイノベーションによる成長加速」を第2期中期経営計画の基本方針としており、過去10年間でM&Aやスタートアップの投資など100億円の投資実績があります。
出典:
https://www.epson.jp/osirase/2020/200401.htm
### (3) エムスリー(1 人 1 円ファンド)
2019年10月25日、エムスリーは1人1円ファンドを設立し、2020年4月22日に投資活動が本格化したことのリリースを行いました。1人1円ファンドの由来は、「インターネットを活用し、健康で楽しく長生きする人を1人でも増やし、不必要な医療コストを1円でも減らす」ことにあります。
ファンド総額は100億円、1社あたり平均数億円、最大20億円程度を投資するとしています。エムスリーは、日本の医師の9割が利用する「m3.com」を運営していますが、m3.comを柱にシナジーを創出していくことが目的です。
1人1円ファンドの投資第一号案件として、クリングルファーマ株式会社とその他1社に対して、すでに17億円を投資実行済みです。
出典:
https://corporate.m3.com/ir/release/2020/pdf/20200422_1P1YFund_J_v1.1.pdf
### 3. CVCによる投資事例
この章ではCVCによる投資事例を6つ紹介していきます。
### (1) クリングルファーマ
クリングルファーマは、2020年3月2日、4月7日に総額16億9千万円を調達しています。各CVCもこのラウンドでの調達に参加しており、東邦ホールディングス、前述したエムスリー、POCクリニカルリサーチが挙げられます。
クリングルファーマは、肝細胞増殖因子(Hepatocyte growth factor: HGF)の組換えタンパク質の医薬品開発を行っている大阪大学発の創薬ベンチャーです。大阪大学のベンチャーキャピタルも同様にクリングルファーマへの出資を実施しています。
出典:
https://www.kringle-pharma.com/wp-content/uploads/2020/03/200302_増資_1stクロージング_ver4.pdf
https://www.kringle-pharma.com/wp-content/uploads/2020/04/200407_増資_2ndクロージング_ver4.pdf
### (2) RevComm(レブコム)
レブコムは2020年5月11日、2020年10月5日に総額15億円を調達しています。パーソル、エン・ジャパン、ブイキューブ、NTTドコモ、KDDI、ミロク情報サービスなど、数多くのCVCがこのラウンドに参加しています。
レブコムは、「新たなコミュニケーションの在り方を創造し、世界に変革をもたらす」をミッションに、AI×Voice×Cloudのソフトウェアを開発しているスタートアップです。具体的なプロダクトは、MiiTel(ミーテル)と名付けられた営業電話を可視化してくれるAI搭載型クラウドIP電話サービスです。
ミーテルを利用することで、営業電話の全録音、文字起こし、沈黙回数など様々なデータ取得が可能となり、アポ獲得率や成約率に大きく貢献することが期待されています。
クラウドIP電話サービスということから、NTTドコモやKDDIといったキャリア大手のCVCが投資実行している点が特徴的です。
出典:
https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000023.000037840.html
https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000037.000037840.html
### (3) ティアフォー
ティアフォーは、2020年7月4日にシリーズAとして累計113億円の資金調達を完了したことを発表しました。CVCとして出資した企業は、ヤマハ発動機、KDDI、アイサンテクノロジーなどが挙げられます。
ティアフォーは、世界初オープンソースの自動運転OSであるAutowareを開発しており、自動運転をメインに事業活動している企業です。調達した資金は、優秀な人材獲得、財務基盤強化、自動運転システムの商用化のために使われる予定です。
出典:
https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000017.000040119.html
### (4) Looop(ループ)
ループは、2020年6月30日に総額28.3億円の資金調達を実施しました。CVCの出資も多く、ENEOS、NEC、双日、日本グリーン電力開発などがこのラウンドにて出資しています。
ループは再生可能エネルギーを中心としたエネルギーサービス事業者であり、「Looopでんき」というサービスをメインにしています。エネルギー事業ということから、ENEOS、双日など同様のエネルギー事業を営んでいる企業とのシナジーが見込まれる事例です。
出典:
https://looop.co.jp/info/1753_20200630
### (5) Paidy
Paidyは2020年4月9日、伊藤忠Cから第三者割当増資を受けている旨のプレスリリースを行いました。PaidyはシリーズCまでラウンドが進んでおり、総額313億円の資金調達を完了させている大型スタートアップです。
Paidyは、「お買い物にめんどうくさいはいらない」をミッションに、後払い決済ソリューションを提供している企業です。ペイパルのCVCであるペイパル・ベンチャーズからも出資を受けており、決済企業として今後の成長が大きく期待されています。
出典:
https://download.paidy.com/press_releases/2020/PR_20200409_ITOCHUfundRaising.pdf
### (6) APB
APBは2020年3月4日、合計7社から総額約80億円の資金調達を実施することを発表しました。今回のラウンドで出資を行った企業は、JFEケミカル、JXTG イノベーションパートナーズ合同会社(JXTGホールディングスのCVC)、大林組、慶應イノベーション・イニシアティブ1号ファンド、帝人、長瀬産業、横河電機です。JXTGのCVCなど事業会社からの調達が多かった点が特徴的です。
APBは、次世代型リチウムイオン電池「全樹脂電池」の開発を行っており、今後の量産化が期待される企業です。今回の資金調達により、全樹脂電池の量産工場設立を目的としています。
出典:
https://apb.co.jp/asset/pdf/newsroom_5.pdf
## 4. まとめ
日本国内には、ベンチャーキャピタルと同様にコーポレートベンチャーキャピタルも数多くあり、コロナ禍の中でも投資実行してきています。今後、日本経済が活性化するためには、新しい技術やビジネスモデルの台頭が必要不可欠であり、大手企業が生き残るためにも、イノベーションの実現が重要です。
CVCは大手企業の営業基盤やノウハウと、有望なスタートアップの架け橋となるため、各社の企業運営の中でも重要な意味を持ってくると思われます。コロナが明けた後の各CVCの動きも注目したいところです。
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