M&A

M&Aにかかる会計基準の変遷、重要論点、国際会計基準との差を紹介します

M&Aに関する会計基準は何度かの変遷を経て今の形に落ち着いています。それに応じてM&A会計基準のポイントも変化しています。
重要論点や国際会計基準との差について、具体的な事例をもとに分かりやすく解説していきます。

1. M&Aにかかる会計基準とは

M&Aにかかる会計基準は、主に「企業結合に関する会計基準」です。この会計基準では、取得原価の算定、取得原価の配分方法、のれんの会計処理、負ののれんの会計処理、共通支配下の取引等の会計処理などが定められています。
企業結合に関する会計基準の主な改正は2008年、2013年に行われています。それぞれ具体的な改正内容を確認していきましょう。

(1)2008年改正の内容

この年の大きな改正点の一つとして挙げられるのが、持分プーリング法の廃止です。
持分プーリング法とは、買収対象企業の資産負債を帳簿価格のまま引き継ぐ会計処理のことをいいます。2008年改正以前は、原則的な会計処理であるパーチェス法と持分プーリング法の2通りの会計処理が存在していました。持分プーリング法では資産負債の時価評価をしないため、のれんが発生しないため、会計処理の違いに関する影響額は大きいものとなっていました。
しかしながら、米国基準やIFRSでは持分プーリング法が廃止されたことを受けて、日本基準においても2008年の改正で廃止されることとなりました。2008年以降、買収の会計処理で認められているのは、買収対象企業の資産負債を時価評価するパーチェス法のみとなっています。

次に大きな影響となったのが、無形資産への取得原価の配分が、「できる規定」から「しなければならない規定」へと改正されました。
買収金額の中に、ブランド価値や顧客基盤の価値が認められる場合は別途無形固定資産を認識し、配分後の残りをのれんとしなければなりません。この一連の会計処理の流れを、Purchase Price Allocation(PPA)と呼びます。PPAの処理を適切に行うためには、高度な知識と経験が求められるため実務担当者には負担が生じることとなりました。

また、2008年改正にて負ののれんの会計処理も変更されました。従来はのれんと同様に負ののれんも一定年数での償却が求められていましたが、発生時の利益とするものとなりました。
定期償却から利益の一括計上へと変更されたため、買収した時の利益の額に大きな違いが生じることになります。

(2)2013年改正の内容

この改正に伴い、従来は「少数株主持分」という名称だった貸借対照表上の勘定科目が、「非支配株主持分」へと名称が改められました。この変更に伴い、「当期純利益」も「親会社株主に帰属する当期純利益」へと変更されました。

M&Aの取得関連費用の取り扱いにも改正が加えられました。以前まではM&Aに関するアドバイザリー費用など直接的な費用は取得原価に含める処理が行われてきました。
この改正でアドバイザリー費用や仲介費用、デューデリジェンスなどすべての費用は取得原価とせず、発生した事業年度の期間費用とするものへと改められました。
また、子会社の一部取得、一部売却、追加取得により支配権を獲得した場合の処理など細かい点の改正が行われています。

2. M&A会計基準の重要論点―PPA(Purchase Price Allocation)

M&Aにかかる会計基準の改正の中でも分かりづらい一方で重要性が増した論点は、PPAです。PPAの詳細について具体例を交えながら確認していきましょう。

(1) PPAとは

M&Aにより取得した資産について「法律上の権利」または「分離して譲渡可能」な無形資産が含まれ、その無形資産の独立した価格を合理的に算出できる場合、その無形資産に取得原価を配分する手続のことです。
法律上の権利の具体例:特許権、商標権、著作権、営業上の機密事項など 分離して譲渡可能な資産の具体例:ソフトウェア、顧客リスト、特許で守られていない技術など

(2) 無形資産の例

PPAにより識別されるべき無形資産は、IFRSでは下記のように分類されます。日本基準の実務上も下記のように分類して把握するケースが多いです。

a. マーケティング関連の無形資産

商標、商品名、インターネットドメイン名、競業避止契約など

b. 顧客関連の無形資産

顧客リスト、受注残、契約外の顧客との関係など

c. 芸術関連の無形資産

演劇、オペラ、バレエ、本、楽曲、写真、絵画、映画、テレビ番組など

d. 契約関連の無形資産

ライセンス、フランチャイズ契約、雇用契約、サプライ契約など

e. 技術関連の無形資産

特許権を得た技術、無特許の技術、ソフトウェア、秘密の製法など

(3) 無形資産の識別作業

実務上、無形資産の識別作業はデューデリジェンスレポート、株価算定書、知的財産リスト、顧客リストの資料を受領し分析することから始めます。
また、買収側、買収された側の経営者に対してマネジメントインタビューを通して、競争力の源泉を把握し無形資産を洗い出していきます。
一方で無形資産を洗い出した結果、すべて無形資産として認識しなければならないわけではありません。金額的重要性が低い項目については、実務上のれんとして一括として計上されるケースもあります。

(4) 無形資産の価値算定

無形資産を識別した後は価値を算定します。
価値の算定方法は、主にマーケットアプローチ、インカムアプローチ、コストアプローチの3つの方法があります。マーケットアプローチは、他の類似した資産の市場取引などから価値を算定する方法ですが、取引情報を入手することが困難な場合が多いため、インカムアプローチとコストアプローチが実務上使われることがほとんどです。
インカムアプローチは、いわゆるDCF法と同じであり、その無形資産から将来受け取れるキャッシュフローを算出し割引現在価値に直す方法です。コストアプローチとは、無形資産を取得するまでにどの程度の費用がかかったのかを積み上げ計算して価値を算定する方法です。

(5) のれんの計算

PPAにより無形資産の価値算定を行った後は、買収価格から無形資産の金額を差し引き、最終的なのれんの金額を算出します。一般的に無形資産は買収金額の範囲内におさまるケースが通常です。
無形資産の価値を大きくしすぎてしまうと、負ののれんが発生することになってしまい、PPAが間違っていたのではないかと気づくことができます。のれんは実は、PPAの後でないと正確な数字は分からない、ということを覚えておきましょう。

(6) 無形資産の償却

のれんと同様にPPAにより識別された無形資産は償却計算が必要です。無形資産の種類ごとに耐用年数を決定し、その期間内に定額償却していきます。
例えば、特許権は5年、顧客リストは3年、技術価値は10年などその無形資産の特徴に合わせて、償却期間は異なってきます。

(7) 具体的なPPAの数字例

経営者であるあなたは、A社の株式100%を10億円で買収することにします。A社の貸借対照表上、資産10億円、負債10億円、純資産は0円です。PPAをしなかった場合は、のれんの金額は、【10億円―(0円×100%)】で計算することができ、10億円です。次にPPAを行った場合を見ていきましょう。

A社にはPPAを行った結果、無形資産として識別すべきものとして特許権と顧客リストの2つがありました。どちらもインカムアプローチにより価値を算定したところ、特許権は2億円、顧客リストは3億円の価値があると見込まれます。

この場合ののれんの金額は、【10億円―(0円×100%)-2億円―3億円で5億円となります。つまり、M&A後の連結貸借対照表には、特許権2億円、顧客リスト3億円、のれん5億円の3つの無形資産が計上されることとなります。

特許権は5年、顧客リストは3年、のれんは5年で償却する場合、年間の償却費は、特許権償却0.4億円、顧客リスト償却1億円、のれん償却1億円の合計2.4億円となります。
顧客リストの償却が3年とのれんよりも短い分、PPAをした結果、連結損益計算書にも影響があることが分かります。

3. 米国会計基準、国際会計基準(IFRS)との差異

日本のM&Aに関する会計基準について、米国会計基準や国際会計基準と比べて大きく異なっている点があります。それは、のれんを償却するかどうかです。
日本基準の場合、のれんは20年以内に定額法その他合理的な手法により償却することが求められています。
一方で、米国会計基準やIFRSの場合は、のれんは償却を行わず、最低年に一回は減損テストを行います。減損テストとは、貸借対照表に計上されているだけの価値があるのかどうか、その資産から生み出されるキャッシュフローや財務状況から評価を行うことです。
減損テストを行った結果、減損の必要が生じた場合は減損額をその期の期間費用として処理します。結果として、米国会計基準やIFRSの方が、のれん償却している日本基準よりも、多額の減損が生じやすいと言えます。積極的なM&Aにより成長を続けている企業は、米国会計基準やIFRSを採用している場合が多くなってきています。
日本企業でIFRSを採用している主な企業はソフトバンク、楽天、武田薬品工業、エムスリー、ヤフー、じげん、などが挙げられ、全部で187社(2020年4月時点)あります。

参照:日本取引所グループHP
https://www.jpx.co.jp/listing/others/ifrs/tvdivq0000001joo-att/j20200401-1.pdf

また、米国会計基準やIFRSでもPPAは必要です。
のれんの償却が必要ない分、PPAは日本の会計基準の場合よりも重要性が増します。PPAで識別した資産は償却が必要で、のれんは償却されないため、営業利益に対するインパクトが大きく異なってしまうためです。

4.まとめ

M&Aにかかる会計基準の改正や重要論点であるPPA、米国会計基準やIFRSとの差異について見てきました。
以上のようにM&Aの会計基準はいまだ改正が続いており、のれんの償却に関して、IFRSでものれんは償却すべきでないかという意見も上がっている状況です。
きちんと会計基準による違いを分かっていなければ、財務諸表を読み解くことはできません。
特にM&Aの会計処理は金額が多額に上る分、数字に与える影響はとても大きなものとなります。きちんと最新の基準を頭に入れて、みなさまのM&Aの実務に生かして頂けましたら幸いです。

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