M&A

MBO(経営者による買収)、LBO(借入を原資にした買収)とガバナンスの関係

この記事では、主にMBO・LBOについて、そのスキーム、メリット・デメリット、デメリットを解消する措置について説明します。

1 MBO

(1) MBO(Management Buyout)のスキーム

MBOとは、Management Buyout(経営者による買収)を意味します。具体的には、まず経営者が買収者となるSPC(特別目的会社)を設立します。

SPCは、金融機関やファンドから買収のための融資・出資を受け、それによって調達した資金で株主から株式を買い取ります。この買取りには、多くの場合、TOB(公開買付)が利用されます。

MBOは必ずしも非公開化を伴うわけではありませんが、多くの場合、その後非公開化がされます。非公開化をスムーズに行うためには、まず、SPC等が株式の100%を取得する必要があります。
そのために、会社法上、特別支配株主の株式売渡請求制度または株式併合制度が用いられます。前者は持株比率90%以上が必要ですが、対象会社の株主総会決議は不要です。

これに対して、後者は、株主総会決議(特別決議)が必要ですが、それで足りるため、SPC(やその協力者)の持株比率が66.6%あれば可能です。
その後、全株式に譲渡制限を付することが行われます。株式の譲渡制限は、議決権を行使できる株主の半数以上かつ当該株主の議決権の3分の2以上という特殊の決議によって行われます。

(2) MBOのメリット:ガバナンスの強化

MBOのメリットとして、長期的な視点から経営することができること、迅速な意思決定が可能になること、IRのコスト等を節約できること、経営者が企業価値を最大化することへのインセンティブが強くなることが挙げられます。

上場企業では、いわゆる所有と経営の分離が生じます。上場企業は株式市場を通じて少額かつ多数の出資を受け入れることにより、多額の資金調達をすることができます。

もっとも、所有と経営が分離していない企業(いわゆるオーナー企業)と比較して、経営者から見れば、リスクもリターンも他人に帰属するため、そのままでは企業価値を最大化するインセンティブがうまく働きません。

そこで、国や証券取引所は、取締役に善管注意義務・それを怠った場合の損害賠償責任・その株主代表訴訟による追及という制度を用意したり、取締役の選任・報酬の決定の権限を株主総会に留保したり、取締役の任期を2年(これに対して非公開会社では10年まで延長可)としたり、有価証券報告書・四半期報告書・臨時報告書の提出や、重要な会社情報の開示(いわゆる適時開示)を求めることで、取締役に企業価値を最大化するインセンティブを与えようとしています。

しかし、これらの規制は、反面、経営者を株価という短期的な目標に注力させる、過度にリスク回避的な行動を誘発する、IR関係書類を作成したり、そのための調査をしたりするコストを生じさせる、経営上秘匿することが望ましい情報を開示せざるを得ないこととしてしまうという副作用を持っています。

MBOが行われることで、これらの規制を受けなくなるため、その副作用も受けなくなります。一方、所有と経営が一致し、リスクもリターンも経営者自身に帰属することとなるため、上記のような規制によらなくても、企業価値を最大化することへのインセンティブは強くなり、ガバナンスに資する側面があります。

(3) MBOにおける少数株主の保護

企業買収の場面においては、経営者は、他の場面におけるのと同様に、(特定の株主の利益ではなく)株主の共同の利益のために行動することが求められます。

しかし、MBOの場合、経営者としては買収価格を引き上げるインセンティブを持つ一方、買収者としては買収価格を引き下げるインセンティブを持つこととなり、利益相反が生じます。
言い換えると、経営者が買収者として行動することにより、少数株主の利益が害されるおそれがあります。このような事態を避け、できる限り公正な取引が実現されるよう、会社法上や実務上、様々な措置が取られています。

まず、社外取締役(や場合によっては外部の弁護士、会計士等の専門家)が特別委員会を組織し、株主の共同の利益を代表して行動します。
従来社外取締役は業務執行に関与することができませんでしたが、令和元年会社法改正により、代表取締役・業務執行取締役と会社の間に利益相反が生じる場合には、社外取締役が業務執行に関与することができることとされ、このような上記のような実務が承認されました。

TOBは、金融商品取引法上の公開買付規制を受けます。本来株式の売買は自由であるところ、一定規模以上の売買について公開買付の手続によることを強制することで、情報開示に基づく(少数株主を犠牲にしないという意味での)公正な取引を実現しようとするものです。

特別支配株主の買取請求は、株主総会決議が不要とされています。これは、株主総会を開いても可決されることが明らかであるためですが、請求が不当に行われる場合、少数株主が救済を受ける手段がないということでもあります。
そこで、請求前については差止請求、請求後については無効の訴えが用意されています。

株式併合については、株主総会決議が必要とされます。この株主総会決議は特別決議であり、出席株主の3分の2以上の賛成が必要とされます。
また、株主総会決議が違法である場合、株式併合の効力発生前については差止請求、発生後については無効の訴えが認められていますし、適法に特別決議が成立した場合でも、反対株主には端数となる株式について買取請求権が与えられています。

さらに、非公開化(譲渡制限を付する)にあたっても、株主総会決議が要求されます。この株主総会決議は特殊の決議で、議決権を行使できる株主の2分の1かつ当該株主の議決権の3分の2以上の賛成が必要とされます。
特別決議と比較してもさらに厳格で、資本多数決だけでなく頭数が要求されていること、3分の2の母数が出席株主の議決権ではなく議決権を行使できる株主の議決権とされていることという違いがあります。

このように厳格化されているのは、株式会社においては出資金の返還が認められておらず、株式の売却(譲渡)が唯一の(撤退による)投下資本の回収方法であるところ、株式に譲渡制限が付されること(譲渡について取締役会の承認が必要とされること)は、その売却の機会を制限することとなるためです。
決議が違法な場合の無効の訴えと、適法な場合の株式買取請求権が用意されていることは、株式併合の場合と同じです。

2 LBO

(1) LBO(Leveraged Buyout)のスキーム

LBOとは、Leveraged Buyoutの略であり、「てこを効かせた買収」といった意味です。主として借入金を原資にして企業を買収し、対象会社のキャッシュフローで借入金を返済するというものです。

これにより、現時点では必ずしも十分な資金を有していないが経営能力は有しているという買収者が、企業を買収することが可能になります。
なお、借入金の返済を確実にするため、買収後、SPCと対象会社は合併し、対象会社自身が債務者となることとなります。

(2) LBOとMBO

上記の説明から分かる通り、LBOとMBOは異なるスキームですが、両立するものでもあり、実際に、MBOにおいてはしばしばLBOが行われています。

経営者は必ずしも十分な資金を有しているとは限らず、一方、従来の経営者が経営を継続するのが通常であるため、従来の経営がうまくいっている場合には、買収後の対象会社のキャッシュフローに期待することができ、融資を受けやすいため、両者は親和的であると言えます。

(3) LBOにおけるコベナンツ

LBOにおいては、資金提供者は債権者となります。会社法上、債権者は株主よりも優先して返済を受けることができますが、株主と比較すると、経営に関与する権限や、その前提として経営状態を知る権限は与えられません。

しかし、LBOにおいては専ら対象会社の事業が生み出すキャッシュフローが引き当てとされるため、債権者が経営をコントロール必要があります。そのための条項(コベナンツと呼ばれます)として、次のようなものがあります。

  • アファーマティブコベナンツ(積極的義務)
  • 報告・開示義務…事業計画や投資計画の提出、財務報告
  • 貸付実行後に予定される行為の遵守…買収対価の支払い・公開買付の決済、既存借入金の完済・既存借入枠の解消
  • 財務制限条項 …レバレッジ・レシオの値を一定以下に維持すること、DSCR の値を一定以上に維持すること、最低純資産額を一定以上に維持すること、営業利益・経常利益・当期利益の黒字を維持すること
  • ネガティブコベナンツ(消極的義務=禁止事項)
  • スポンサーへの優先資金流入の制限・禁止…配当・自己株式の取得の制限、役員報酬・賞与の制限、スポンサーに対するサービスフィーの支払制限
  • 同順位債権者の禁止…金融債務、リース債務、割賦債務、オフバランス債務等を負担することの制限、デリバティブ取引の制限、保証・担保を提供することの制限、社債を発行することの制限
  • 投資等の制限・禁止…設備投資、M&A、その他投融資等の制限・禁止
  • キャッシュフローの管理…関係会社との取引の制限、預金口座の開設の制限
  • 事業の維持…重要な変更(定款変更、組織再編、減資等)の禁止、株式公開の制限、主たる事業の変更や解散の制限、重要契約や支払条件の変更の制限、特定期間における責任者の関与継続(キーマン条項)

LBOにおいては、これらのコベナンツを通じて、債権者によるガバナンスが行われるという側面があります。

3 まとめ

MBOにおいては、経営者が買収者となるSPC(特別目的会社)を設立し、SPCは、金融機関やファンドから買収のための融資・出資を受け、それによって調達した資金で株主から株式を買い取ります。その後、多くの場合、非公開化がされます。

これに対して、LBOにおいては、買収者が主として借入金を原資にして企業を買収し、対象会社のキャッシュフローで借入金を返済します。

MBOにおいては、経営者は必ずしも十分な資金を有しているとは限らず、一方、従来の経営者が経営を継続するのが通常であるため、従来の経営がうまくいっている場合には、買収後の対象会社のキャッシュフローに期待することができ、融資を受けやすいため、しばしばLBOが行われます。

MBOが行われることで、これらの規制を受けなくなるため、その副作用も受けなくなります。
一方、所有と経営が一致し、リスクもリターンも経営者自身に帰属することとなるため、上記のような規制によらなくても、企業価値を最大化することへのインセンティブは強くなり、ガバナンスに資する側面があります。

LBOにおいては、資金提供者は債権者となります。LBOにおいては専ら対象会社の事業が生み出すキャッシュフローが引き当てとされるため、債権者が経営をコントロールする必要があるため、様々なコベナンツが合意されます。

4 関連記事

【解説!】MBOのステップ、メリット・デメリット
MBOとは、「マネージメント・バイ・アウト」の略称です。簡単に言うと、企業が自社の株式を既存株主から買い取ることをいいます。こちらの記事では、MBOの方法やその効果について説明しております。

買収防衛策の主要目的ルールを事例とともに解説します
近年、上場企業が有事導入型の買収防衛策を取る事例が現れ、また、事前警告型の買収防衛策を導入する企業も現れています。こちらでは、その買収防衛策の内容とトレンドを解説しております。

PLEASE SHARE

PAGE TOP

MENU

SCROLL

PAGE TOP

LOADING    80%

Please turn your device.
M&A Service CONTACT