M&A

新設・吸収、分社型・分割型の会社分割に関する税務について 概要とみなし配当等の注意すべき点を解説します

会社分割とは、事業の一部または全部を他社に承継させるM&Aの手法の一つです。
会社分割を検討するにあたり、税務に関する知識は必要不可欠です。会社分割のスキームによって、どのような税務上の影響があるのか、みなし配当がかかる場合など、詳細に解説していきます。

1. 会社分割の種類

最初に会社分割の基本事項である会社分割の種類について説明します。
会社分割には新設・吸収×分社型・分割型の2×2=4パターンあります。

新設・吸収とは、新設分割は新しい法人に承継させる分割で、吸収分割は既存の法人に承継させる方法です。実務上、新設分割はほとんど使われておらず、吸収分割がメインに使われています。

分社型・分割型とは、分割対価を分割元会社に割り当てるのが分社型、分割元会社の株主に割り当てるのが分割型です。分社型分割は物的分割、分割型分割は人的分割と呼ばれることもあります。

2. 適格分割と非適格分割

適格分割とは、下記の7要件を全て満たした分割のことです。

(1) 主要資産・負債引継要件

主要な資産負債が分割承継法人に移転していることを言います。

(2) 従業者引継要件

分割直前の分割事業に係る従業員のうち、80%程度が引き続き、分割承継法人の業務に従事することが必要です。

(3) 事業継続要件

分割事業が分割後にも、分割承継法人にて引き続き継続することが必要です。

(4) 事業関連性要件

分割法人の分割事業と分割承継法人の分割承継事業が相互に関連していることを求められています。分割後に全く新しい事業を行ってしまう場合は、適格分割には該当しません。

(5) 事業規模要件又は経営参画要件

分割法人の分割事業と分割承継法人の分割承継事業の売上高、従業員等の割合が5倍程度を超えないことが必要です。
例えば、A事業の売上が9億円、B事業の売上が1億円のケースで、B事業を会社分割により切り離す場合は、売上の比率が5倍を超えているため、適格分割には該当しません。
また、分割前の役員が分割後の分割承継法人の特定役員となることが見込まれていることも要件となります。

(6) 株式継続保有要件

分割後に、分社型分割であれば分割法人により、分割型分割であれば支配株主に継続して株式を保有することが見込まれていることが必要です。

(7)対価要件

会社分割の対価として、分割承継法人の株式以外の資産が交付されてないことが必要であるため、現金を交付する場合は適格分割にはなりません。

適格分割に該当する場合は、資産・負債を簿価で引き継ぐというのが基本的な税務処理です。
適格分割以外は全て非適格分割に該当し、資産・負債を時価で引き継ぎます。簿価で引き継ぐか、時価で引き継ぐかで税務上の取り扱いが変わってきます。

3. 適格分割と非適格分割の税務上の取り扱いについて

適格分割と非適格分割の税務処理を、分割法人、分割承継法人、分割法人の株主に分けて解説していきます。

(1) 適格分割の場合

適格分割で、分社型吸収分割のケースを考えます。 適格分割のため、分割法人の資産と負債を簿価により、分割承継法人へ引き継ぎます。

分割対価として、分割法人は分割承継法人の株式を得ることとなります。資産簿価を2億円、負債簿価を1億円とした場合、分割法人と分割承継法人の税務仕訳は下記のとおりです。

■分割法人

借方 / 貸方
負債1億円 / 資産2億円
株式1億円(差額で計算) /  

■分割承継法人

借方 / 貸方
資産2億円 / 負債1億円
  / 資本金1億円(差額で計算)

上記のとおり、分割法人において資産と負債を簿価で切り離すだけなので、分割時点での譲渡損益の認識はありません。分割法人において、分社型吸収分割後に株式譲渡を行った場合、株式簿価1億円をもとに譲渡損益が計算されます。

続いて、分割型吸収分割のケースを考えます。分割型分割の場合、分割法人、分割承継法人、分割法人の株主の3者の取引となります。
資産簿価を2億円、負債簿価を1億円、分割直前の資本金を2億円、分割移転割合を0.5、分割法人の株式簿価を1億円とした場合、分割法人、分割承継法人、分割法人の株主の税務仕訳は下記のとおりです。

■分割法人

借方 / 貸方
負債1億円 / 資産2億円
資本金1億円※1 /
利益積立金額0円(差額で計算) /  

※1 分割直前の資本金2億円×分割移転割合0.5

■分割承継法人

借方 / 貸方
資産2億円 / 負債1億円
/ 資本金1億円(分割法人と同額)
/ 利益積立金額0円(分割法人と同額)

■分割法人の株主 分割前は分割法人の株式1億円を保有しており、分割後は分割法人の株式と分割承継法人の株式を保有することとなります。
分割法人の株式簿価を分割によって価値が減少した分を、分割承継法人の株式取得原価に振り替える税務処理を行います。上記の事例のケースでは、分割法人株式0.5億円、分割承継法人株式0.5億円を保有することとなります。

なお、吸収分割のケースにつき解説してきましたが、新設分割でも吸収分割と同様の税務処理を行います。

(2)非適格分割の場合

非適格分割で分社型吸収分割のケースを考えます。新設分割の場合も、分割承継法人が新しい会社か既存の法人かどうかによる違いだけですので、ここでは吸収分割のみを事例としています。
資産簿価2億円(時価3億円)、負債簿価1億円(時価1億円)、分割対価を株式3億円とした場合、分割法人と分割承継法人の税務仕訳は下記のとおりです。

■分割法人

借方 / 貸方
負債1億円 / 資産2億円
株式3億円 / 譲渡損益2億円(差額で計算)

■分割承継法人

借方 / 貸方
資産3億円(時価) / 負債1億円(時価)
資産調整勘定1億円(差額で計算) / 資本金3億円

分割法人と分割承継法人において、資産と負債を時価で引き継ぐことにより、分割法人で譲渡損益を認識します。 この譲渡損益は法人税法上、益金として認識され法人税の課税対象となります。
分割承継法人では資産と負債を時価で引き継ぎ、差額として資産調整勘定を認識します。資産調整勘定とは、税務上ののれんのことです。資産調整勘定は5年で定額償却を行い損金算入されます。非適格分社型吸収分割のケースでは、事業譲渡と同じような税務処理となっています。

続いて、分割型吸収分割のケースを考えます。分社型吸収分割が一番複雑なパターンで、唯一みなし配当を認識するスキームです。
資産簿価2億円(時価3億円)、負債簿価1億円(時価1億円)、分割対価を株式3億円、分割直前の資本金を2億円、分割移転割合を0.8、分割法人の株式簿価を1億円とした場合、分割法人、分割承継法人、分割法人の株主の税務仕訳は下記のとおりです。

■分割法人

借方 / 貸方
負債1億円 / 資産2億円
株式3億円 / 譲渡損益2億円(差額で計算)

資本金1.6億円(分割直前の資本金2億円×分割移転割合0.8)/ 株式3億円 利益積立金額(=みなし配当)1.4億円

分割法人でいったん分割対価を受領した後に、分割法人の株主へ分割対価を配分するという考え方を取ります。
分割対価の配分が生じるため、みなし配当が発生します。ここでみなし配当とは、会社法上の配当には該当しないものの経済的実体が利益配当と同等であることから、法人税法上の配当とみなされたものを言います。

■分割承継法人

借方 / 貸方
資産3億円(時価) / 負債1億円(時価)
資産調整勘定1億円(差額で計算) / 資本金3億円

分割承継法人の税務処理は、非適格分社型吸収分割のケースと同じになります。

■分割法人の株主 分割法人の株式簿価を分割移転割合に応じて付替えを行います。適格分割の場合はこの処理だけで完了でしたが、非適格分割の場合は、ここからさらにみなし配当を認識します。みなし配当は配当金と同様の処理が行われるため、法人株主であれば配当金の益金不算入制度の対象となります。

ここまで分割対価が株式のケースを説明してきましたが、分割対価が現金の場合、みなし配当と同時に分割法人株式の譲渡損益も認識します。

4. まとめ

今回は会社分割に関わる税務処理に関して説明してきました。会社分割は分社型吸収分割、分社型新設分割、分割型吸収分割、分割型新設分割の4つに分類されることができます。
適格分割と非適格分割で税務上の取り扱いが大きく異なっており、考えられるパターンとしては、会社分割の4分類×適格・非適格分割の8パターンが考えられます。

適格分割の場合は、7つの要件が明確に定められており、グループ内再編の際によく適用されます。
資産・負債を簿価で引き継ぐため、課税関係は単純になります。適格分割以外の分割は、全て非適格分割に分類されますが、こちらは資産・負債を時価で引き継ぎます。非適格分割は、買収の際に使われることもあるM&A手法です。

会社分割では、分割法人、分割承継法人、分割法人の株主の3者が関係しており、それぞれの税務処理が異なります。一番複雑なケースは、非適格分割の分割型吸収分割(新設分割)です。
このケースでは株主へ分割対価が配分されるためみなし配当が発生します。分割法人の株主は計上したみなし配当を税務処理しなければならず、忘れやすい点ですので留意が必要です。

また、非適格分割の場合、資産・負債を時価評価するため、時価評価に関する論点もあります。時価評価の金額により、分割承継法人で認識する資産調整勘定(税務上ののれん)の金額が変動するため、慎重に評価を行う必要があります。実務上、外部株主が多ければ、資産の時価評価と分割移転割合の計算は慎重に行う必要があります。

以上、解説してきたとおり、会社分割に関する論点は多数あり、スキームによっては税務の取り扱いが大きく変わります。

スキームを設計する場合は、必ず事前に公認会計士や税理士などの専門家に相談するようにしてください。スキームを走らせてから全く想定していなかった税金が発生してしまった、では済まされません。

専門家への事前相談を済ませ、論点を明確にしてから、スケジュールを立て、会社分割手続を安全に行うという手順で実務を進められることをお勧めします。

5. 関連記事

M&Aに関する税務知識概要
M&Aの各種スキームに係る税務につき解説した記事になります。どのようなものが課税対象となるのか、組織再編につき課税対象とならないケースの紹介などをまとめております。

M&Aで留意すべき税務上の繰越欠損金、連結納税、合併・分割、事業譲渡での取り扱い
M&Aに係る税務上の論点として、繰越欠損金や連結納税、消費税やのれんの計上など、考慮すべき点を紹介しております。M&Aの際の税金発生を抑える意味でも、税務知識の概観は必要なので、こちらの記事で一度ご確認頂ければと思います。

事業譲渡・会社分割が行われた際の挨拶状の記載方法
事業譲渡や会社分割が実施された際に取引先等へ送る挨拶状は、取引継続をスムーズに行うためにも軽視はできません。M&Aのスキームによって、取引先へ知らせるべき事項は異なってくるため、記載内容は把握しておく必要があります。例文も掲載しておりますので、ご活用ください。

PLEASE SHARE

PAGE TOP

MENU

SCROLL

PAGE TOP

LOADING    80%

Please turn your device.
M&A Service CONTACT