M&A

M&Aで留意すべき税務上の繰越欠損金、連結納税、合併・分割、事業譲渡での取り扱い

M&Aを行う際に留意すべき税務上の論点は数多くあります。その中でも今回は、繰越欠損金、連結納税や合併・分割・事業譲渡での税務上の取り扱いに焦点を当てて具体的な事例を用いながら解説していきます。

1. M&A時の繰越欠損金の取り扱い

買収先に繰越欠損金がある場合、買収スキームによってその取扱い方法は大きく異なっています。投資リターンにも大きく影響する可能性もあり、専門家を交えた事前の慎重な検討が必要な論点の一つです。

(1) 繰越欠損金とは

繰越欠損金とは、税務上の赤字である欠損金の累計額を意味しています。債務超過と似ていますが、会計上の言葉である債務超過と税務上の言葉である繰越欠損金は、両者は明確に異なっています。

(2) 繰越欠損金による節税効果

繰越欠損金がある場合、将来に会社が利益を出せたときに、繰越欠損金と相殺することにより、納税額を減少させることができます。

ただし、何十年も前の欠損金を使えるわけではなく、現在は欠損金の繰越期間は10年と定められています。そのため、繰越欠損金の使用期限が迫っている部分については、費用削減などを行い、計画的に利益を出していく必要があります。

(3) M&Aにより繰越欠損金を引き継げる場合

M&Aを実施すれば買収先の全ての繰越欠損金が引き継げるわけではありません。仮に引き継げてしまうのであれば、節税目的で繰越欠損金の会社を買収するのが得策になってしまうためです。

M&Aのスキームは、株式譲渡、合併、分割、事業譲渡など様々なものが挙げられますが、繰越欠損金を引き継げるスキームは合併のみです。合併の中でも一定の要件を満たした「適格合併」のみが繰越欠損金を引き継ぐことができます。

適格合併の要件は、数多くあり、グループ内再編のような場合にしか当てはまることはありません。世の中のほとんどの合併は適格合併ではなく、非適格合併となります。

合併を検討していて繰越欠損金が重要な場合には税理士に相談のうえ、慎重な検討が必要な点に留意が必要です。

2. M&A時に考慮すべき連結納税の論点

子会社を複数有しているなどグループ経営を行っている場合、「連結納税」という選択肢があります。M&Aが連結納税にどのような影響があるのかを解説していきます。

(1) 連結納税とは

連結納税とは、企業グループを一つの法人であるかのように考え、親会社が一括して企業グループの納税を行う仕組みのことです。連結納税を行うことで、グループの損益が通算されるので赤字の子会社を有する場合は、税負担が少なくなる可能性があります。

例えば、親会社が1億円の黒字、子会社が1億円の赤字であるケースを考えてみましょう。連結納税を適用していなければ、それぞれの会社の納税額は以下のとおりです。なお、法人税率は23.2%としています。 親会社:2,320万円 子会社:0円

一方、連結納税を適用している場合、グループ企業の損益が通算されるので利益は0円です。そのため、連結納税額も0円となります。

(2) 連結納税が適用される場合

連結納税の適用対象は以下のとおりです。 ・親会社と、それが直接間接に100%の株式を保有するすべての子会社(外国法人を除く) ・制度の適用は、選択制。ただし、一旦選択した場合は、継続適用 https://www.nta.go.jp/about/council/sinsabunkakai/021015/shiryo/03.htm

現在、連結納税を選択しており、対象会社の株式を100%取得した場合、その対象会社は連結納税の対象となります。任意に適用したり、しなかったりすることはできない点は注意しておきましょう。

また、対象会社の株式を51%取得する場合には連結納税の対象にはできません。そのため、赤字会社の株式取得を検討している場合、持株比率を100%にした方が税金の観点では有利な可能性があります。

株式譲渡によるM&Aの場合、株式を何%取得するかは重要な条件の一つですが、連結納税を考えている場合は、100%取得するべきかどうかも検討してお必要があります。

3. 合併・分割・事業譲渡の税務上の論点

M&Aのスキームの中でも、合併・分割・事業譲渡に焦点を当てて、税務上の論点を解説していきます。

(1) 消費税

合併・分割は消費税がかかりませんが、事業譲渡の場合は消費税がかかります。1億円のM&Aを行う場合、事業譲渡のみが消費税1,000万円が必要です。

消費税がかかるかどうかは投資コストが回収できるかどうかにも大きな影響を及ぼすため、M&Aのスキーム検討をする際には留意しなければなりません。

ただし、事業譲渡は消費税がかかるものの以下のとおりメリットがあります。 ・買収する事業を選択できる。例えば、赤字事業を承継しないこともできる。 ・会社自体に付いている簿外負債を引き継がない

それぞれのスキームのメリット・デメリットを把握して、専門家との協議を重ねながら最適なM&Aスキームを選択するようにしましょう。

(2) のれんが損金計上できるかどうか

株式譲渡によりM&Aを行った場合、連結財務諸表において「のれん」が計上されます。のれんは、日本の会計基準上、20年以内の定額償却を行うこととされています。税務上はのれんが発生することはないため、課税関係に影響することはありません。

一方、合併、分割、事業譲渡の場合、税務上も「のれん」が発生することがあります。税務上ののれんは「資産調整勘定」と呼ばれており、5年の定額法により償却することが求められています。資産調整勘定の償却費は損金計上されるため、節税効果があります。

ただし、合併、分割の場合で資産調整勘定が計上されるのは、非適格合併・非適格分割の場合のみです。一定の条件を満たしたときには適格合併・適格分割となりますが、この場合は資産と負債を簿価で引き継ぐ税務上の処理がなされるため、資産調整勘定は計上されません。

(3) 繰越欠損金の引継ぎ

合併・分割・事業譲渡の中で繰越欠損金を引き継げるのは、合併のみです。合併のみが買収される会社の法人格が消滅され、分割・事業譲渡は法人格が残るためです。グループ内再編を行う場合で、繰越欠損金をどう使うかが重要論点である際は、合併を最有力なスキームとすると良いでしょう。

(4) 譲渡損益の発生

合併・分割の場合、適格合併の場合は資産・負債を帳簿価格で引き継ぐ税務処理を行うため、譲渡損益は発生しません。すなわち、法人税において何ら影響することはないと言えます。

一方、非適格合併の場合は資産・負債を時価で引き継ぐ税務処理を行うため、譲渡損益が認識されます。譲渡損益の分、課税所得が増減するため、その分法人税に影響を及ぼすこととなります。

事業譲渡に関しては、資産・負債を時価で引き継ぐ処理を行うため、基本的には譲渡損益が発生し法人税の金額が変化することになります。

結論として、適格合併、適格分割以外は、譲渡損益が発生し法人税に影響が出ることになります。

4.合併・分割・事業譲渡において税務以外に考慮すべき点

合併・分割・事業譲渡は税務面だけでなく、法的影響や手続き面に関しても実務上留意すべき点がありますので、3点見ていきましょう。

(1)組織再編行為か否か

合併・分割は会社法上の組織再編行為に該当し、手続きは会社法によって厳格に定められています。そのため、手続きに瑕疵がある場合は、他の関係者から無効や差し止め請求を受ける可能性がある点は留意しておくべきでしょう。

一方、事業譲渡は会社法上の組織再編でなく、単純な商取引となります。そのため、事業譲渡は法律上の手続きは必要なく、当事者間で合意すれば効力を発生することとなります。

(2)手続きにかかる時間

事業譲渡は自社と相手先の合意によって成立するため、その他の法的手続きは関係ありません。極端な話をすればその日のうちに事業譲渡にかかる手続きを全て完了させることも可能です。

他方で合併・分割に関しては、株主総会決議、取締役会決議、公告、債権者保護手続、労働者保護手続、など様々な手続きを踏まなければなりません。合併・分割の場合は、案件の状況によって必要な時間はそれぞれですが、通常2カ月程度の期間を要します。

M&Aのスキームを選択する際は、合併・分割・事業譲渡のそれぞれの必要手続きとスケジュールを明確に整理しておく必要があります。

(3)包括承認か個別承認か

M&Aを実施する際、取引先や顧客との関係を引き継がなければなりません。合併・分割の場合、取引先や顧客と全て個別に同意する必要はなく、組織再編完了による包括承認で足ります。

一方、事業譲渡の場合は、取引先や顧客から個別に同意を得た後に事業譲渡を行う必要があります。個別同意なしには、事業譲渡により買い手に契約が引き継げることを主張することはできません。

そのため、契約数が多い、顧客数が多いといった場合で個別同意を得ることが実務上不可能であるケースでは、事業譲渡を採用することは困難となります。

5. まとめ

以上、M&Aで留意すべき繰越欠損金、連結納税、合併・分割・事業譲渡の税務上の取り扱いを確認してきました。

今回説明してきた論点は、主にM&Aにより発生する税金をいかに抑えるべきかにつながります。全てのM&Aスキームを網羅的かつ詳細に検討していくことは難しいですが、ある程度の基礎知識を入れたうえで比較検討することが望まれます。

特に、繰越欠損金の引継ぎや連結納税の導入は現在の税務面だけでなく、将来の税務面にも大きな影響を及ぼします。適用のための条件やメリット・デメリットを把握し、顧問税理士やM&Aに詳しい専門家などに相談のうえ、意思決定を行うことが大切です。

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