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ディープラーニングを使った酒造り、「南部美人」について解説します

今回は、人工知能の発達を支える「ディープラーニング」の仕組みと、その技術を用いた酒造り、「南部美人」を解説していきます。

1. ディープラーニングとは?

ディープラーニング(深層学習)とは、人間が自然に行なっている仕事を機械に学習させる機械学習のひとつです。
近年、人工知能(AI)が急速に発達していますが、ディープラーニングはその発達を支える重要な技術のひとつとして研究されてきました。

現在では、自動運転、画像認識、音声認識など、私たちの身の回りの様々な面で活用されています。

2. ディープラーニングの仕組み

(1) ディープラーニングが注目され始めたきっかけ

昨今、人工知能の発展とともに、ディープラーニングという言葉を耳にする機会が増えてきました。そこで、初めにこのディープラーニングという技術がここまで注目されるようになったきっかけを紹介します。

ディープラーニングがここまで注目されるようになったのは、2012年の画像認識コンテスト「ILSVRC(ImageNet Large Scale Visual Recognition Challenge)」がきっかけと言われています。このコンテストでジェフリー・ヒントン博士は、当時革新的だったディープラーニングを用いた画像認識システムを提案しました。

このシステムには、様々な画像に含まれている物体を、「動物」や「機械」のように分類し、特定できる人工知能が用いられました。
その結果、ヒントン博士は、歴代の優勝記録を大幅に更新する精度で優勝しました。この出来事をきっかけとして、ディープラーニングに注目が集まるようになりました。

(2) ディープラーニングの仕組み

続いて、ディープラーニングの仕組みを説明します。

ディープラーニングは、人間の神経細胞(ニューロン)の構造を模した、ニューラルネットワークをベースにしています。すなわち、人間の脳内にある神経細胞のつながり(神経回路 網)を数式モデルで表現したものがニューラルネットワークです。

ディープラーニングのアルゴリズムには種類があり、そのうちのひとつにディープニューラルネットワーク(DNN)というものがあります。

ニューラルネットワークには、入力層、中間層、出力層と呼ばれる3つの層があります。デ ィープニューラルネットワークにおける「ディープ」という表現は、ニューラルネットワークにおける中間層が多層であることを意味しています。

従来のニューラルネットワークでは、中間層は多くても2〜3層でしたが、ディープニューラルネットワークではおよそ150もの数の中間層になることもあります。中間層を多層にすることで、情報伝達と処理速度が増え、予測精度を向上させることができます。

(3) ディープラーニングの学習過程

次に、ディープラーニングにおいて、具体的にどのような過程で学習が進められていくのかを、画像認識を例に説明します。

ディープラーニングの画像認識では、大まかに分けて学習処理のフェーズ、推論処理のフェーズに分かれます。

学習処理のフェーズでは、その画像が何を示しているかを学習します。りんごの画像なら「りんご」、みかんの画像なら「みかん」というようにラベル付けされた画像を認識させ、学習していきます。ディープラーニングでは、この認識を大量のデータで行います。

推論処理のフェーズでは、未知の画像を処理した際に、学習処理フェーズで学習した大量の画像をもとに、その画像の特徴を抽出して、未知の画像が何であるかを推論します。

よって、ディープラーニングでは、学習処理フェーズで認識させるデータが多ければ多いほど精度が向上するという特徴があります。一方で、データが少なければその分精度も低下してしまいます。ディープラーニング技術の発達により、大量のデータがあれば、複雑で扱いづらいデータの処理も行うことができるようになりました。

ここでは画像認識の例を紹介しましたが、ディープラーニング技術には他にも、音声認識、自然言語処理、異常検知処理といった技術があります。

音声認識では、人間の声を認識してテキストに出力したり、音声の特徴を学習して誰の声かを識別したりできます。身近な例では、スマートフォンやタブレット型端末に搭載されています。

自然言語処理は、人間が日常的に用いる言葉をコンピューターに処理させる技術です。身近な例では、機械翻訳で主にこの自然言語処理の技術が用いられています。

異常検知処理では産業機器などに取り付けられたセンサーなどの時系列データを用いて、異常の兆候を感知します。身近な例では、防犯カメラにこの技術が用いられています。
このように、ディープラーニングの技術は様々な形で応用されています。

3. ディープラーニングを用いた酒造り、「南部美人」

(1) 南部美人の課題

ここでは、このディープラーニングの技術の画像認識による応用例として、「南部美人」を紹介します。

「南部美人」は、明治時代から続く岩手県の酒蔵です。酒造りは、職人芸によって支えられており、酒造り工程の多くは職人の感覚や経験、勘が必要とされています。
つまり、酒造りは伝統的に属人的なものでした。しかし、昨今では代々伝わってきた伝統的な技術を継承する職人が不足しており、酒造りを続けていくことは困難になってきています。

2018年には、戦前から続く、東京23区内で唯一残っていた酒蔵である小山酒造が清酒製造事業から撤退、事実上の廃業となってしまいました。このように、少子高齢化がもたらす人手不足は、日本酒業界にも多大な影響を与えています。

そこで「南部美人」は、人工知能を取り入れることで人手不足を補うことを考えました。「南部美人」で取り組まれているのは、酒造りにディープラーニングの技術を取り入れるという、日本酒業界では初となる試みです。

しかし、伝統的な技術に頼ってきた酒造りにおいて、全ての工程を人工知能に委託することは非常に困難です。そこで、「南部美人」では酒造りの全ての工程を人工知能に任せるのではなく、職人の手助けをする形で人工知能を取り入れることにしました。

(2) 浸漬(しんし)にディープラーニングを活用

酒造りの工程では、匂いや味など、現在の技術では人間にしか判断することのできない要素があります。そこで「南部美人」では、酒造りの工程の中でも唯一、人間の目だけを使う浸漬(しんし)という工程に着目し、ディープラーニングの技術を取り入れることにしました。

浸漬とは、酒米を洗った後、水に浸して米粒の芯まで水を適度に吸収させる工程です。
酒造りではその後浸漬させた米を蒸気によって加熱し完全な蒸米にするため、浸漬の工程は非常に重要です。

また、浸漬での吸水時間は米の品質や種類、気温などの状態によって異なり、変化を考慮してその都度判断することは容易ではありません。そのため、浸漬の時間を人間の目で正確に判断できるようになるためには、10年間も必要であると言われています。

さらに、この工程で酒の仕上がりが大きく異なるばかりではなく、一度米に水を浸すと再度やり直すことはできなくなります。そのため、酒造りにおいて浸漬の工程は、職人の判断が大部分を担っていました。

そこで、「南部美人」では、この浸漬の工程において、ディープラーニングによる画像解析を用いて職人の技術を機械学習し、この工程の判断を人工知能に任せることを目指しました。

この試みは、株式会社imaが計画、手動して進めているプロジェクトです。imaは、伝統的な匠の技術と最新のテクノロジーとを繋ぎ、新しい価値を創出することを理念としています。
その取り組みのひとつが日本酒であり、現代のITや人工知能の最先端の技術を使って、匠の技術を後世に残すだけでなく、再び社会で活性化させようと試みていています。
株式会社ima HP https://i-ma.jp

この取り組みでは、まず職人の作業のデータを収集するところから始まります。データを収集する際には、直径15センチ程度の筒状の密閉容器を用います。
中にはUSB電子顕微鏡、温度計、LED照明が取り付けられています。職人が浸漬の作業をすると同時進行で、容器の中では酒米を水に浸して、その変化を画像データとして記録します。

この際、全体の色味、米粒が割れる割合、気泡の付き方や膨張率を記録していきます。この工程を、酒米の種類や水温など、様々な条件で繰り返し行い、データを蓄積していきます。繰り返し行いデータを蓄積していくことで、職人が酒米を水から引き上げるときの状態を人工知能に認識させることができます。

これらの実験を何度も繰り返すことで、従来職人でしかできなかった浸漬の工程を、人工知能に任せることを目指しています。

それだけではなく、収集したデータを、後世の職人を育てるためにも用いることが期待されています。これらの技術は、人間の仕事を奪うのではなく、人間と人工知能とが共生していくために用いられているのです。

4. その他醸造への応用

「南部美人」ではディープラーニングの技術が取り入れられましたが、ここで用いられたノウハウや収集したデータは「南部美人」に用いるためだけに留まらず、これらを用いて、日本酒業界をさらに活性化させていくことが期待されています。

例えば「南部美人」の酒造で得られたデータをクラウド上で共有し、全く別の酒造りに活かすことができます。
これらの伝統的な技術は今まで共有されることは多くなく、狭い範囲でのみ伝統的な技術として伝えられてきました。

今後、最先端技術を用いて技術が共有されても、製品としての差別化は十分続けられることが予想されます。それどころか、他の製品のノウハウが取り入れられることで、製品としての新たな発展に繋がっていくことが期待されています。

5. 最後に

今回は、ディープラーニングによる酒造りの技術を紹介しました。日本酒の歴史は1000年以上にもなりますが、400年ほど前からその発達が横ばいになっているとも言われています。

「南部美人」のように、最先端の技術と伝統的な技術とが融合することで、新たな製品やシステムが誕生し、伝統的な技術や製品に革新が起こるだけでなく、昨今の諸問題の解決の手助けにもなることが期待されています。

伝統的な職人の技術を後世に残し、さらには発展させていくためにも、最先端のIT技術を学んでいくことが非常に重要です。

参考記事
生成発展 テクノロジーで変革する中小企業の未来
https://change.asahi.com/articles/0014/ ディープラーニング(Deep Learning)とは?【入門編】
https://leapmind.io/blog/2017/06/16/ディープラーニング(deep-learning)とは?【入門編】/

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