M&A

【2019年版】海外スタートアップのM&A事例5社

大手企業や中小企業による、比較的新しいビジネスの分野で急成長を見せる「スタートアップ」を対象としたM&Aがさかんです。

海外ではM&Aが活発とも言える状況を呈しており、案件によっては100億ドル超、日本円にして1兆円を超える大型のM&Aも行われています。

今回は2019年に海外のスタートアップ企業を対象としたM&Aの事例を紹介するとともに、そのスキームやM&Aの目的、期待されているシナジー効果について解説していきます。

1. スタートアップとはなにか

(1) スタートアップとは

M&Aの事例を見ていく前に、まずは「スタートアップ」について理解しておきましょう。

スタートアップに明確な定義はありませんが、一般的にはAIやIoTなど比較的新しい分野で目覚ましい成長を遂げている、創業間もない企業や事業を指します。

すでに成熟している分野の新興企業や、既存企業の子会社・関連会社をスタートアップと呼ぶことはあまりなく、市場を開拓し、新たなニーズを生み出していくような革新的な企業・事業を指すことがほとんどです。

スタートアップが最終的に目指す先には、IPO(新規上場)による「キャピタルゲイン」や、会社や事業を売却する「バイアウト」などを通じて、大きな収益を上げることがあります。

(2) スタートアップとベンチャーの違いとは

スタートアップと似たようなものに「ベンチャー」があります。

スタートアップ企業とベンチャー企業、どちらも同じ意味で捉えられがちですが、前者が「ゼロから新たに、あるいは新たな組み合わせでビジネスを生み出す企業」、後者が「比較的ニッチな分野に新しい技術やノウハウを持ち込み、事業を拡大する企業」といったニュアンスで区別されています。

2. ナイキによるスタートアップM&A事例

M&Aの実施時期 2019年8月
対象企業名 セレクト(Celect)
事業内容 ビッグデータの分析プラットフォームの開発
M&Aの目的 ナイキ直営店やアプリでの顧客情報の分析と需要予測

2019年、スポーツ用品大手のナイキはボストンに拠点を置くAIスタートアップCelect(セレクト)を買収しました。

セレクトは、2013年創業のマサチューセッツ工科大学発のスタートアップ企業で、買収額などM&Aの詳細は非公開と発表されています。

ナイキは近年、製品のイノベーションと併せて顧客との距離を縮めることを目指し、新戦略として顧客の購買行動や好みなど「ビッグデータ」に基づくデジタル戦略を打ち出していました。

今回のセレクト買収で同社の分析プラットフォームを導入したことにより、ナイキは直営店やスマホアプリなどで得た膨大な顧客の購買情報を分析、顧客のニーズにぴったりと寄り添った製品を開発し、販売することを目指します。

さらに、小売店は顧客の購買データを元にして需要予測を立て、在庫管理や在庫最適化、顧客満足度の向上が実現できると予測されています。

ナイキはニューヨークに続いて東京渋谷にデジタルとリアルを融合した新店舗「ナイキ バイ シブヤ スクランブル(NIKE BY SHIBUYA SCRAMBLE)」をオープンするなど、先進的なデジタル戦略を推進中です。

AIによるファッションのトレンドサイクルを予測することは困難と言われている中で、ナイキをはじめとする世界的ブランドが今後、AIスタートアップの買収や事業提携により、消費者のパーソナルを「見える化」したデジタル戦略を強化していく可能性があります。

3. Apple(アップル)によるスタートアップM&A事例

M&Aの実施時期 2019年12月
対象企業名 スペクトラル・エッジ(Spectral Edge)
事業内容 マシンラーニングによる画像改善技術
M&Aの目的 iPhoneで撮影した画像の改善技術の取得

米大手ITのフェイスブック、アップル、マイクロソフト、グーグル、アマゾン・ドット・コムの5社(FAMGA)がAIスタートアップを積極的に買収してきたことは、IT関連事業に携わる人でなくてもご存知のことではないでしょうか?

たとえば、アップルのAIアシスタント「Siri(シリ)」や、グーグルが提供するグーグル・マップのストリートビューも、AIスタートアップを買収したからこそ実現できたと言っても過言ではありません。

そんなFAMGAのうち、現在もっともAIスタートアップの買収件数が多いのはアップルです。2019年に注目されたアップルの企業買収案件のひとつが、英スタートアップのスペクトラル・エッジ(Spectral Edge)の買収です。

同社は機械学習(マシンラーニング)と呼ばれるAIと画像融合技術を用い、スマートフォンで撮影した写真に赤外線で撮影した写真を合成、色彩をより鮮明に、正確にする技術を保有しています。

2019年にリリースされたiPhone 11シリーズの超広角カメラが話題となったように、スマートフォンの市場は現在、カメラ性能の競争が激化しており、アップルがさらなるカメラの機能拡張を検討していることは想像に固くありません。

現在のところアップルは、スペクトラルの買収価格について正式な数字を出していませんが、IT関連のメディアでは後から正式発表されるのではないかと予想しています。

4. Facebook(フェイスブック)によるスタートアップのM&A事例

M&Aの実施時期 2019年2月
対象企業名 GrokStyle
事業内容 コンピュータービジョンを活用した検索機能
M&Aの目的 自社マーケットプレイスの検索機能の強化

もうひとつ、FAMGAの企業買収案件として、フェイスブックが米スタートアップ企業の「GrokStyle」を買収した事例をご紹介しましょう。

GrokStyleは、AIの下位分野である「コンピュータービジョン」技術を開発する企業です。コンピュータービジョンとは、顔認識や高画質画像の自動生成など「コンピューターを用いた視覚の実現」を研究する分野で、たとえば、カメラの顔画像認識やCTスキャンの画像診断などに活用されています。

また、GrokStypleのコンピュータービジョン技術は、スウェーデン発祥の家具販売企業「イケア」のモバイルアプリの類似商品表示機能にも活用されています。自宅の家具や照明などをアプリのカメラ機能で撮影すると、イケアの店舗在庫の中から、レイアウトや雰囲気に合ったアイテムを探し出してマッチングするというものです。

フェイスブックは同社のフリマ機能「フェイスブック・マーケットプレイス(日本未公開)」上での、関連アイテムの表示にGrokStypleのコンピュータービジョン技術を用いることを想定しています。

前述の通り、米大手IT各社はコンピュータービジョンやAR(拡張現実)、VR(仮想現実)などAI分野に重点的な投資を行っており、フェイスブックによるGrokStyleの企業買収もその一環と考えられます。

5. テスラによるスタートアップのM&A事例

M&Aの実施時期 2019年10月
対象企業名 DeepScale
事業内容 自動運転の知覚システムの開発
M&Aの目的 自動運転の知覚システムの改善、優秀な人材の確保

100年に1度の大変革期とも言われている自動車業界のホットな話題と言えば、なんと言っても自動運転車でしょう。

電気自動車や自動運転車の開発・製造・販売でトップをひた走る米テスラは、完全自動運転車の実現に向け、AIスタートアップ企業の買収に乗り出しています。その案件のひとつが、設立4年のAIスタートアップ「DeepScale」の買収です。

DeepScaleは、自動運転車向けの高精度な知覚システムの開発を手掛けており、これはスマートカー(IT・スマート化技術で安全性や快適性を高めた自動車)分野には欠かせないものとなっています。

今回の買収は、テスラが将来的なロボタクシー(無人タクシー)、あるいは自動運転によるライドシェアサービスの実現に向けた知覚システムの改善、それに必要な優秀なエンジニアの獲得こそが本来の狙いだと考えられています。

6. テルモ株式会社によるスタートアップのM&A事例

M&Aの実施時期 2019年11月
対象企業名 アオルティカ
事業内容 大動脈瘤治療をサポートする医療製品群の開発
M&Aの目的 動脈疾患における個別化医療への貢献、日米欧での共同開発製品の販売

日本国内の企業が海外スタートアップを買収した事例をご紹介します。
医療機器の製造・販売の国内最大手である株式会社テルモは、2019年11月にアメリカの医療技術スタートアップ企業アオルティカを買収しました。

アオルティカは、通常の治療法では困難な大動脈の複雑症例に使われる医療製品群を開発している企業です。

テルモが展開する事業ブランド「Terumo Aortic」は、人工血管やステントグラフトと呼ばれる大動脈治療製品群を幅広く展開しており、アオルティカの大動脈瘤治療をサポートする独自技術とのシナジー効果により、動脈疾患における患者一人ひとりに適した「個別化医療」への貢献が期待されています。

大動脈瘤は動脈硬化などで弱った大動脈に瘤(こぶ)のような膨らみができることで、いったん瘤が大きくなると加速度的に膨らみ、最終的には破裂に至ります。日本では心筋梗塞と並んで患者数が増えている病気です。

テルモとアオルティカのM&Aがもたらすシナジー効果によって動脈治療技術が進展すれば、患者や症例のタイプに合わせた最適な治療法が選択できるようになるでしょう。

7. まとめ

海外スタートアップのM&A事例を紹介しましたが、2019年は現在急激に成長しているAIやIoT関連の企業の事例が多く、またメディアにも多く取り上げられています。

大手から中小に至るまで、AI・IoT関連事業に取り組む企業が多いことから、M&Aも活発に行われていることがわかります。

実は、日本ではスタートアップ企業の買収や連携、引いてはM&Aも含めたスタートアップへの興味がまだまだ薄く、成功事例も非常に少ないという課題があります。

新規事業や市場開拓を狙う企業にとって、1からリソースをつぎ込むのではなく、すでに目的とする分野のスタートアップの革新的な技術やノウハウを手にすることができるのがM&Aの買い手側の最大のメリットです。

一方で、スタートアップは会社や事業で多額の売却利益を得たり、主力事業を拡大したりと行ったメリットが得られます。

今回の記事で見てきた海外スタートアップのM&A事例を参考に、ビジネスの成長を促進するソリューションとして、M&Aへの理解を深めていただければ幸いです。

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