自社のM&Aを検討される際に気になるのが、他社の事例ではないでしょうか。
他社はどういう目的を持ってM&Aを行なっているのか、どういった仕組みでM&Aを実施したのか、気になることはたくさんあると思います。
また、買収企業だけではなく、被買収企業にもなぜこの企業からM&Aを受け入れたのか、M&Aを受け入れることでどういったメリットが自社にあるのかなども気になる点だと思います。
そこで、今回は2019年最新版の国内スタートアップ企業のM&A事例を紹介いたします。
1. 事例①バンドー化学→Aimedic MMT
まず、最初の事例は総合科学メーカーのバンドー化学が整形外科向けインプラント等の医療機器を提供するAimedic MMTを買収した案件を紹介いたします。スタートアップ企業というとテクノロジーやIT業界がまずは思いつきますが、最初に紹介する案件は化学業界です。
(1) 事例概要
買収企業:バンドー化学株式会社
被買収企業:Aimedic MMT株式会社(設立年月日 2016年2月17日)
買収金額:約105億円
株式譲渡実行日:2019年5月8日(予定)
買収企業の事業内容:
総合化学メーカー。産業用ベルト、精密ベルトなどを中心に樹脂フィルムやシートを製造。特にベルト事業で世界シェア90%以上を誇る。
被買収企業の事業内容:
整形外科向け医療機器の製造・販売・アフターサービス
(2) 本M&Aの狙い
バンドー化学では2018ー2022年度までの現・中長期経営計画“Breakthroughs for the future”において、 新たな事業の柱の1つとして、伸縮性ひずみセンサ「C-STRETCH®」を活用した医療機器・ヘルスケア機器事業の確立に取り組んできていました。
被買収企業であるAimedic MMTは医療機器の中でも整形外科向けの医療機器において高いブランド力と販売力を有しており、この買収を行なうことで医療事業体制を一挙に獲得することができます。そして、医療機器としての「C-STRETCH®」の製品化が加速することが可能と判断し、今回の買収に至ったとのことです。
Aimedic MMTについて総合化学メーカーであるバンドー化学の傘下入りをすることで販売チャネルの拡大など自社にとっても大きなメリットがあると判断したと考えます。
(3) 本M&Aのスキーム
日系プライベートエクイティファンドであるポラリス・キャピタル・グループ株式会社が運営するファンドより全ての株式を取得し、100%子会社化を行ないました。
資金取得方法については公表されておりませんが、バンドー化学のIR情報を参照すると約180億円程度の現金及び現金同等物を有しており、直接・間接問わず本買収に向けた特段の資金調達はしなかった可能性もあります。
2. 事例②アイモバイル→オーテ
次に紹介するのはスタートアップ企業の多いテクノロジー業界、その中でもスタートアップ企業が多いとされているスマホ関連業界で有名な「パズルde懸賞」シリーズを代表とするスマホアプリ開発のオーテ株式会社が買収される案件です。規模感・買収の狙いやスキームなど典型的な事例と言えるのではないでしょうか。
(1) 事例概要
買収企業:株式会社アイモバイル
被買収企業:オーテ株式会社(設立年月日 2014年5月)
買収金額:約5億円
株式譲渡実行日:2019年8月9日(予定)
買収企業の事業内容:
アドネットワーク事業、動画広告事業(maio)、アフィリエイト事業、代理店事業、通販事業、ふるさと納税事業(ふるなび)、人材紹介事業、レストランPR事業、ネットキャッチャー事業等
被買収企業の事業内容:
スマートフォン向けアプリの企画・開発・運営等
(2) 本M&Aの狙い
オーテ株式会社は2014年5月にスマートフォン向けアプリの企画・開発・運営を目的に設立されており、パズルと懸賞システムを融合した「パズルde懸賞」シリーズを中心にスマートフォンゲームアプリを提供しています。また、該社は高品質なパズルを低コストで生産できることが特徴であり、エンドユーザーの定着も多くなっています。アプリ保有数は15本と限られていますが、ダウンロード数は累計で275万ダウンロードとなっており、サービス開始以来急速な成長を果たしています。
一方、アイモバイル株式会社は多くの事業を展開する中で、インターネット広告事業に強みを持っております。
今回の買収により、従来より強みとしていたアイモバイルグループのインターネット広告事業での知見と、オーテ株式会社の保有する強力なアプリでの広告収入の収益性向上及び収益の多様化を図り、新規ユーザー獲得における広告運用の強化及びサービス体制拡充を図りたいとのことです。
また、売却側であるオーテ株式会社としては、創業メンバーへの報酬として十分な規模の売却益を得られる話であり、今後の事業安定にも寄与すると考えたのではないでしょうか。
(3) 本M&Aのスキーム
本M&Aはオーテ社の代表取締役大森氏および取締役手塚氏との間で株式譲渡契約を結び、両者が保有する発行済株式総数の100%を譲り受ける完全子会社化の形で行われています。
本買収に伴う資金調達の方法については公表されていませんが、IR情報によると2019年10月末時点でアイモバイルは約120憶円程度の現金および預金を保有しており、今回の買収金額も5億円程度と限られていることから自己資金での買収となったことが予想されます。
3. 事例③VOYAGE GROUP→rakanu
最後に紹介する案件もテクノロジー・IT業界の案件です。ペットメディア事業をデジタルでユーザーに届けているrakanu株式会社が総合IT企業であるCARTA HOLDINGS傘下でネット広告事業を展開するVOYAGE GROUPに買収される案件です。
こちらは買収企業が非上場であるため、公開情報が限られていますが、業界やスキームなど国内スタートアップ企業のM&Aの典型例と言えるケースであると思います。
(1) 事例概要
買収企業:株式会社VOYAGE GROUP
被買収企業:rakanu株式会社(設立年月日2014年12月11日)
買収金額:非公表
株式譲渡実行日:2019年7月1日(予定)
買収企業の事業内容:
ネット広告事業を展開するCARTA HOLDINGS傘下でアドプラットフォーム事業、ポイントメディア事業、インキュベーション事業を担う。特にアドプラットフォーム事業を中心に展開。主なサービスとして”fluct”、
”Zucks”、”intelish”などの広告プラットフォームがある。
被買収企業の事業内容:
ペットメディア事業及びデジタルマーケティング支援事業
(主な運営メディア)
FRENCH BULLDOG LIFE(フレンチブルドッグライフ)https://frenchbulldog.life/
SHIBA-INU LIFE(柴犬ライフ)https://shiba-inu.life/
Retriever Life(レトリーバーライフ)https://retriever.life/
(2) 本M&Aの狙い
VOYAGE GROUPの親会社であるCARTA HOLDINGSでは、ネット広告市場で業界をリードする圧倒的な存在を目指して、コンシューマー事業の強化を打ち出しています。その強化策として、広告主のニーズが強いと考えられる優良なメディアを拡充していくことを考えていました。
その状況の中、rakanu株式会社では2016年に犬種に特化したペットメディアをフレンチブルドッグ向けにスタートしたのを皮切りに、柴犬やレトリーバーなどに広げていき、その規模を拡大することに成功、優良なコンテンツとロイヤルティの高いユーザーを得ることができています。
今回の買収を通じて、VOYAGE GROUPは優良コンテンツをそのラインナップに加えることができ、コンシューマー事業の強化を行うことができると考えられています。
また、被買収企業であるrakanu株式会社にとっても、VOYAGE GROUPが展開しているコンシューマー事業のノウハウを取り込むことで、自社の競争力強化とユーザーに対する付加価値向上を行うことができると判断したとのことです。
(3) 本M&Aのスキーム
公開情報によると経営陣から発行済み株式全てを取得しての完全小会社化とされています。VOYAGE GROUPは非上場企業のためIR情報は提供されておらず、買収金額やその資金調達方法なども非公表となっています。
一方、VOYAGE GROUPの親会社であるCARTA HOLDINGSの業績は好調であり、2018年9月末時点で現金および現金同等物の残高が50億円程度あり、今回の買収も自己資金で対応可能であった可能性が高いと考えます。
4. まとめ
本日紹介した事例は金額の大小はありましたが、いずれも買収企業の既存事業の強化が目的となっている点が共通事項かと思います。また、2020年1月の本稿執筆時点ではいずれのケースにおいても被買収企業は吸収・合併等をされておらず、独立した事業を継続していることも共通しています。
また、今回紹介した事例では直接・間接を問わず、資金調達はされていない可能性が高く、自己資金の厚い企業が買収企業となっている点も同じです。
一方、スタートアップというとどうしてもテクノロジー関連の話が多いのですが、今回は化学業界の案件も取り入れ、テクノロジー以外の業界でのスタートアップ企業についてもM&Aの対象となることをご理解いただけたかと思います。