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M&Aスキームで留意!濫用的会社分割の紹介と、事業譲渡との違いを解説

この記事では、会社分割とは、濫用的会社分割とはどのようなものか、分割会社に対してのみ請求できる残存債権者の保護について説明します。

1 会社分割と債権者のリスク

(1) 会社分割とは何か

会社分割とは、会社(分割会社)の事業を分割することを言います。
分割した事業をどうするかによって、吸収分割と新設分割に分けられます。
吸収分割及び新設分割の手続や、メリット・デメリットについては、過去の記事【会社分割・株式交換を使うべき場面と、それぞれのメリット・デメリットについて】をご参照ください。
https://paradigm-shift.co.jp/column/46/detail

以下では、吸収分割を前提に説明します。

(2) 債務者のリスク:債務が承継される場合、されない場合

会社分割の場合には、資産・債務を選択して分割の対象とすることができるため、債権者の引当財産の状況が変わり、それによって債権者が害されることがありえます。その場合として、債務者が変更されることによる場合と、債務者が変更されないことによる場合があります。

前者の場合には、債務が分割の対象とされる一方、資産が分割の対象とされず、債務が十分に引当財産の十分な会社から乏しい会社に承継されることにより、デフォルトリスクが生じます。後者の場合(濫用的会社分割)には、債務が分割の対象とされない一方、資産が分割の対象とされ、債務者の引当財産が逸出することにより、デフォルトリスクが生じます。

2 債務が引当財産の乏しい会社に承継される場合の救済

債務が引当財産の乏しい会社に承継されることによって債権者が害される場合の救済として、債権者異議手続が用意されています。
①吸収分割の当事会社は、一定の期間(1か月以上)を定め、
②債権者に異議を述べる機会を与えるため、吸収分割会社を含む当事会社は、当該期間内に異議を述べることができる旨を含め、一定の事項を官報に公告するとともに、知れている債権者に個別に催告しなければなりません(ただし、公告を日刊新聞紙または電子公告により行った場合には、不法行為債権者に対するものを除いて、個別の催告は不要です)。
③債権者は、当該期間内に、異議を述べることができます。
④異議を述べた債権者に対しては、会社は、債権者を害するおそれがない場合(例えば承継会社に十分な資産がある場合)を除き、弁済するか、相当の担保を提供するか、弁済に供するために相当の財産を信託しなければなりません。

3 債務が承継されず、資産が逸出する場合の救済

上記に対して、濫用的会社分割における債権者の救済については、会社法制定時(平成17[2005]年)には、明文で救済が用意されていませんでした。

(1) 最判平成24年10月12日―詐害行為取消権

民法上、詐害行為取消請求権という制度があります。債務者が財産を処分し、それによって債務者が債務超過に陥り、債権者が害され、かつ、債務者と財産処分の相手方がその詐害性を知っていたという場合に、債権者が財産の処分の相手方を被告とする訴えを提起して、財産の処分の取消しと、その財産の返還を求めることができるという制度です。

これに対して、会社分割は、財産処分に関わる行為ですが、同時に、会社の組織に関わる行為でもあります。また、会社法上、会社分割の無効は、会社分割無効の訴えという、第三者にも効力が拡張される特別の訴えによってのみ主張できるとされています(会社分割においては多数の利害関係人が想定されるため、特にその有効性を安定させる必要が強いためです)。そのような中で、会社分割が詐害行為取消しの対象となるかについては、直ちに明らかではありませんでした。

しかし、会社法上、濫用的会社分割における債権者の救済手段が用意されていなかったことから、この制度を使って救済を求める債権者が現れ、それを認める下級審裁判例も現れました。そして、最高裁は、平成24[2012]年10月12日の判決において、そのような請求を認めました。

その上で、判決は、「その債権の保全に必要な限度で新設分割設立株式会社への権利の承継の効力を否定することができる」としました。また、詐害行為取消しは、債権者と財産処分の相手方との間でのみ生じるものとされています。そのため、詐害行為取消しによって取り消されるのは、個別の権利(財産)の承継であり、会社分割そのものではありませんし、債権者が返還を請求することができるのも、自己の債権を保全するために必要な財産に限られます。

なお、詐害行為取消権は、本来債務者に財産を返還させる権利であり、債権者への返還を求める権利ではありません。しかし、判例は、金銭については、債権者が返還を受領することを認めており(平成29[2017]年民法改正で明文化されました)、かつ、その金銭を債務者に返還する債務を、詐害行為取消権の基礎となっている債権(被保全債権)によって相殺することを認めています(平成29年民法改正では、この規律を改めることが検討されましたが、最終的にそうされませんでした)。そのため、債権者は実質的には財産処分の相手方に対して履行を請求できることとなります。

(2) 平成26年会社法改正―詐害的会社分割における直接請求権

会社法制定(平成17[2005]年)後の議論および上記の平成24[2012]年の最高裁判決を受けて、平成26[2014]年、会社法が改正され、濫用的会社分割における債権者の救済のための制度が明文で規定されました。

すなわち、①吸収分割会社が、その債務が吸収分割承継会社に承継されない債権者を害することを知って会社分割をした場合には、承継会社に対し、承継した財産の価額を限度として、その債務の履行を請求することができる、②ただし、吸収分割承継会社が詐害性を知らなかった場合には、この限りでないとされています。

なお、平成26年会社法改正後も、平成24年最高裁判決による詐害行為取消しは可能であると考えられています(大枠は同じですが、権利行使が可能な期間、債務者が破産した場合の処理などが異なります)。

4 事業譲渡の場合

事業を別の会社に承継させる点で、会社分割は事業譲渡と類似します。しかし、事業譲渡は、契約や債権・債務の移転について、相手方の個別の承諾が必要ない点で、会社分割と異なります。会社分割では、この特別に与えられた効力のために、事業の承継を円滑にすることができます(そのぶん手続が複雑ですが)。

事業譲渡には、上記のような効力がないため、債務の移転には、民法上の原則どおり、債権者の同意が必要になります(免責的債務引受け。平成29[2017]年民法改正において、民法に明文の規定が置かれました)。その結果、「債務が引当財産の乏しい会社に承継される場合」の救済は必要ないことになります。債務の承継により引当財産が減少すると考える債権者は、同意をしなければよいからです。

これに対して、「債務が承継されず、資産が逸出する場合」については、債権者は、債務の承継がなく、また、資産の逸出についてはそもそも同意は必要ないため、同意の拒否によって自己を守ることはできません。そこで、平成26年会社法改正において、会社分割におけるのと同様の直接請求権が規定されました。

5 まとめ

会社分割とは、会社(分割会社)の事業を分割することを言います。吸収分割は、株主に重大な影響を与えるため、株主総会決議(特別決議)事項とされています。一方、債権者は、債務が引当財産の乏しい会社に承継され、または、債務が承継されず、資産が逸出することによって害されることがあります。

前者の場合の救済として、債権者異議手続が用意されています。期間内に異議を述べた債権者に対しては、会社は、債権者を害するおそれがない場合(例えば承継会社に十分な資産がある場合)を除き、弁済するか、相当の担保を提供するか、弁済に供するために相当の財産を信託しなければならないとされています。

後者の場合が濫用的会社分割であり、会社法制定当初は手当がなされていませんでしたが、最高裁は、平成24[2012]年10月12日の判決において、民法上の詐害行為取消権に基づく承継会社に対する返還請求を認め、また、会社法上も、平成26[2014]年改正において、承継会社に対する直接請求を認めました。いずれも詐害性(債権者が害されること。典型的には会社分割によって資産が逸出し、債権の回収が図れなくなること)、そのことを当事会社が知っていたことが要件とされています。

事業譲渡の場合には、債務の移転には、民法上の原則どおり、債権者の同意が必要であるため、前者の問題は生じません。これに対して、後者の問題は同様に生じるため、同様の直接請求権が規定されています。

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