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M&Aにおける買収プレミアムとは?買収プレミアムの源泉を探ります

M&Aのニュースを見ていると、「買収プレミアム」という言葉を見かけることがあります。買収プレミアムとはそもそも何なのか、なぜ、買手は買収プレミアムを支払う必要があるのでしょうか?今回は、買収プレミアムの計算方法や源泉、実務上の留意点などを解説していきます。

1. 買収プレミアムとは

買収プレミアムとは、買収価格から市場価格(公正価値)を差し引いた金額のことです。買手としては市場価格で買収したいところですが、売手としては買収される場合はより多額の対価を要求することが一般的であるため、M&Aの際は買収プレミアムが加算されることがほとんどです。買手としては、市場価格より割高となる買収プレミアムを支払ってもなお、投資回収を図ることができると考えていることになります。買収プレミアムは上場企業をターゲットにするTOBの際によく発生します。

2. 買収プレミアムの源泉

買収プレミアムが支払われる理由は、将来的に市場価格より企業価値を向上できると考えていることに他なりません。主な買収プレミアムの源泉となる3つの要素を見ていきましょう。

(1) 現在の経営が非効率と考えられる場合

買手が対象会社の経営を非効率と考えており、買収後の経営陣変更により、より効率的な経営ができると考えている場合、買収プレミアムの支払が正当化されます。日本の上場企業は、内部留保が多く、積極的な投資を行わないため成長性が損なわれていると批判されることがあります。そのため、株価も安値で放置されている企業があり、買収プレアミアムを支払ってでも買収したい対象会社が出てくるのです。

事業会社のM&Aというよりも、投資ファンドなどが割安で放置されている日本企業をターゲットにM&Aをする場合が主に当てはまります。投資ファンドはM&A後に経営改善を行い、より高値でエグジットを行うか、再度の上場を目指すことになります。

(2) 自社の事業とのシナジーがある場合

自社の営んでいる事業と対象会社の事業にシナジーがある場合、買収プレミアムを支払ってでも買収できる可能性があります。事業のシナジーは様々なものが考えられますが、主なものは下記のとおりです。

  • スケールメリットによるコスト削減効果
  • 事業間の相互送客
  • 自社プロダクトの拡充
  • 販路拡大効果

(3) 無形の資産を高く評価している場合

無形の資産とは、貸借対照表に計上される無形固定資産ではなく、ノウハウ、ブランド価値、技術力、特許、商標権、営業権といった資産です。買手が市場の評価よりもこれらの無形の資産を高く評価している場合、買収プレミアムを支払うことが正当化されるケースがあります。ブランド価値の価値算定などは、決まりきった算定式があるわけではなく、買手によって評価は様々です。そのため、買手の数だけ買収プレミアムの提案金額も異なることになります。

3. 買収プレミアムの相場観

TOBの際の買収プレミアムの相場は、市場価格から20%~40%程度です。つまり、今の上場株式の株価が一株あたり100円であれば、120円~140円で買収のオファーを出し、20円~40円の部分が買収プレミアムの金額となります。

買収プレミアムの金額が少なければ、TOB自体が失敗に終わるケースも少なくありません。買収提案を受けた現株主は、買収プレミアムの金額や、このM&Aが将来的な株主価値向上につながるかどうかを総合的に鑑み、買収に乗るかどうかを判断します。結果として、買手が当初想定していた買い取り株式数に満たなかった場合は、TOBが成立しないこととなります。

買手としては、できるだけ買収プレミアムを抑えて投資総額を小さくできるのが望ましいですが、売手がどの程度の金額であれば買収に応じてくれるかが不透明です。そのため、買収プレミアムの算定は慎重に行う必要があります。

4. 買収プレミアムの計算方法

買収プレミアムは、買収総額を計算した後、現在の株価を差し引いて計算することができます。現在の株価は、直近の株価や、3カ月平均、6カ月平均、12カ月平均といった株価が使用されます。上場企業の株価は常に変動するものですので、短期間だけの株価変動だけで市場価値を算定することは、リスクが大きくなってしまうため、実務上は平均株価を使うケースが多くなっています。

また、過去の株価変動に異常な変動がある場合は、その期間の株価変動を除いて平均株価を計算することもあります。例えば、TOBの情報がリークされてしまった場合に株価が高騰することがありますが、その高騰した期間の株価は算定しないことなどが考えられます。

買収総額の計算方法は、DCF法、マルチプル法、修正純資産法などの手法により計算します。上場企業のM&Aの場合、主にDCF法が用いられるケースが多いです。DCF法とは、M&Aにより将来獲得できるキャッシュフローを、リスクを加味した適切な割引率により、現在価値に割り引く計算方法のことです。

以上、結論として、買収プレミアムは下記の計算式により算定します。 買収プレミアム=
(DCF法などにより算定した買収総額÷発行済株式数)― 市場で取引されている株価

5. 買収プレミアムが発生した事例

2020年に買収プレミアムが発生した主な事例は2つあります。TOBが成立したケースと成立しなかったケースのそれぞれを紹介していきます。

(1) 芝浦機械(旧:東芝機械)×シティインデックスイレブンス(村上ファンド系列)

シティインデックスイレブンスは、2020年1月21日に、芝浦機械に対して一株3456円のTOBを発表しました。これは、前営業日の株価3115円に対して、約11%の買収プレミアムです。TOBが発表された後、芝浦機械の臨時株主総会にて買収防衛策の導入が決議されたことにより、シティインデックスイレブンス側はTOBを取り下げる決断をしました。また、3月末は新型コロナウィルスの影響により、芝浦機械の株価は2000円程度まで落ち込んでおり、TOB価格が割高すぎることも、TOBを取り下げた原因と言われています。

(2) 前田道路 × 前田建設工業

前田建設工業は、2020年1月20日に、前田道路に対して一株3950円のTOBを発表しました。これは前営業日の株価に対して約50%の買収プレミアムが加算された買収金額です。一方の前田道路側では、反対意見を表明し特別配当や他企業との資本提携といった買収防衛策を検討しました。最終的には、TOBは成立し、前田建設工業は前田道路の持株比率51%を取得し連結子会社になりました。

6. 買収プレミアムを考えるうえでの留意点

買収プレミアムの金額はM&Aが成立するかどうかの重要な意思決定材料の一つです。買手として、買収プレミアムを考えるうえでの留意点を下記に整理しています。

(1) 買収プレミアムが高すぎると投資回収できないリスクが高まる

買手としてどうしても実現したいM&Aの場合、買収プレミアムは高く設定されがちです。しかし、本当に重要なのは買収してからきちんと投資回収できるかどうかであり、買収プレミアムが高ければ高いほど投資回収が難しくなります。買収後、策定したシナジー計画が達成できなかった、市場環境が激変してしまった、技術力を高く評価しすぎてしまった、などの場合などは、投資回収できないリスクが高まります。

(2) 買収プレミアムが安すぎるとM&Aが実現できないリスクが高まる

買収プレミアムが売手の希望に沿わなかった場合、そもそものM&Aが成立できない場合があります。買手としては、M&A実現のために専門家を雇ったり、社内でも多くの企業分析に時間をかけたり、多額のコストを支払っています。仮にM&Aが実現できなければ、その時間やコストは全て無駄になってしまいます。買手としては、売手が納得するぎりぎりの買収プレミアムを提案するべきですが、M&A不成立の可能性も高まり、非常に悩ましいトレードオフの関係にあります。

(3) 株価算定を取得する必要性

買収プレミアムを算定する場合は、外部の第三者機関(FASや会計事務所、税理士事務所など)に株価算定を依頼するケースがほとんどです。買収プレミアムを加算した買収金額が妥当であることを売手となる株主に分かってもらうためには、第三者機関の意見が必要となるためです。TOBの際に、どのように買収プレミアムを計算したかどうかを意見書などの形で買手は公表することになります。

7. 買収プレミアムの会計処理

買収プレミアムと似たような言葉として「のれん」があります。買収プレミアム≒のれん、と考えても良いですが、買収プレミアムの金額=のれんではないことに注意してください。M&Aにおけるのれんは下記の計算式で計算することができます。 のれん = 買収金額―(取得比率×対象企業の純資産額)

ここで、買収金額は「市場価格」+「買収プレミアム」と因数分解することができます。そのため、買収プレミアムの金額の分だけ、のれんが増加することとなります。

結果として、買収プレミアムはのれんの増加として認識されるため、のれんと同様の会計処理を行います。すなわち、日本の会計基準ではのれんは20年以内の定額償却をするため、買収プレミアムも同様に定額償却されることとなります。なお、米国基準やIFRSを採用している場合にはのれんは定額償却せず、減損テストの対象となるのみです。

一方で、のれんの金額が多額で投資回収が難しい場合はのれんの減損を計上する必要性が生じます。そのため、買収プレミアムが多額のM&Aを行った場合、のれんの減損リスクが高まっていることに繋がります。

8. まとめ

買収プレミアムに関して、定義、源泉、相場観、計算方法、具体的な事例や留意点などを解説してきました。買収プレミアムはM&Aの実務を行うにあたり非常に重要な論点の一つです。プレミアムの金額次第では、M&Aが成立しないこともあり、その算定にはM&A実務者にとっては悩ましいものとなっています。過去のM&Aの買収プレミアムの実例を確認しながら、割高すぎない適切な買収プレミアムを付けられるよう慎重な検討をするようにしてください。

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