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みなし配当とは?意外なところで税金がかからないように注意!

みなし配当という言葉について、聞いたことはあるが何かはよく分かっていない、そのような方が多いかもしれません。しかし、税務の世界のではみなし配当の扱いは重要で、みなし配当によって納めるべき税金の金額が大きく変わってしまう場合もあります。今回は、みなし配当の税務処理について、具体的に解説していきます。

1. みなし配当とは

みなし配当とは、法人税法第23条の剰余金の配当には該当しないものの、実態としては剰余金の配当であり、これを法人税法上配当金とみなされたもののことです。みなし配当は、受取配当金の益金不算入制度を適用することができます。

みなし配当は、自己株取得や合併時など、株主にお金を渡すようなアクションが起こった際に発生します。具体的な発生要因は下記のとおりです。

(1) 合併

非適格合併の際、対価として株式以外の現金等が配布される場合、みなし配当が発生する可能性があります。

(2) 分割型分割(人的分割)

分割型分割は、人的分割とも呼ばれ株主に対価を渡す組織再編です。合併と同様に、対価として、株式以外の現金等が配布される場合にみなし配当が発生する可能性があります。

(3)株式の分配

株式の分配とは100%子会社の株式を全て配当する組織再編です。株式の分配において、スピンオフ税制という制度が平成29年税制改正によって成立されました。ただし、実務においてこのスピンオフ税制が適用された事例はほとんどなく、まだまだなじみのない取引となっています。

(4) 資本の払い戻し、解散等による残余財産の分配、その他資本剰余金による配当金

資本を直接払い出す行為があった場合、みなし配当事由に相当します。資本の払い戻し相当分を超える配当等があった場合にみなし配当を認識します。

(5)自己株式の取得

自己株式の取得は株主還元の一種として配当金と並んで一般的なものです。自己株式の取得の際、資本部分を超える金額は、実質的に配当金と同等であることからみなし配当として処理されることとなります。

(6)出資の消却、払い戻し、出資者の退社

株式会社ではなく、主に合同会社において上記のアクションが起こった場合、みなし配当事由に該当します。

(7)組織変更

ここでいう組織変更とは、合同会社から株式会社などの組織変更を意味しています。あまり起こることではありませんが、組織変更がみなし配当事由に該当することは認識しておきましょう。

2. みなし配当の計算方法

みなし配当の計算は、合併や自己株取得などケースによって様々ですが、基本的な考え方としては、下記のとおりです。
みなし配当金 = 「受け取った金額」 ― 「資本の払い戻しに該当する金額」

「受け取った金額」は、株主が会社から受け取った金額そのものを意味していますので、特に論点はありません。論点となるのは、「資本の払い戻しに該当する金額」をどのように計算するのか、という点です。

その他資本剰余金による配当金を例にとって確認していきましょう。「資本の払い戻しに該当する金額」は下記の計算式にて計算することができます。
資本の払い戻しに該当する金額 = 払い戻し直前の資本金等の額 × (資本の払い戻しにより減少した資本剰余金の額 ÷ 前期末の簿価純資産額)

「受け取った金額」>「資本の払い戻しに該当する金額」の場合、資本の払い戻しに該当する金額を超える金額は、利益の配当と同一であると考えられることから、みなし配当が認識されることとなります。

3. みなし配当の税務処理

みなし配当の税務処理は、みなし配当を行う側の法人と受け取る側の株主で処理が異なります。

(1) みなし配当を行う法人の税務処理

みなし配当を行う法人において、資本の払い戻しとみなし配当部分を、自社で計算しなければなりません。資本の払い戻し部分は、株主に対する源泉徴収は必要ありませんが、みなし配当部分は、所得税および復興特別所得税の源泉徴収が必要になります。みなし配当部分を計算した後は、株主ごとに源泉徴収し支払調書を作成します。なお、源泉徴収後は翌月10日までに税務署への納付が必要です。

(2) みなし配当を受ける株主の処理

株主がみなし配当を受けた場合、みなし配当部分と資本の払い戻し部分で処理が異なります。法人株主を例として説明していきます。

みなし配当  ・・・受取配当金として処理
資本の払い戻し・・・株式の譲渡対価として処理

ア. みなし配当部分の処理

みなし配当部分は、受取配当金と全く同じように税務処理を行います。そのため、受取配当金の益金不算入制度を適用することができます。受取配当金の益金不算入制度は、配当を行う側ではすでに法人税が課された後の利益を配当するのに対して、配当金を受け取った株主がさらに課税されてしまう二重課税を排除する目的の制度です。受取配当金の益金不算入額は具体的には下記のとおりです。

  • 完全子法人株式等に係る配当・・・全額
  • 持株比率が1/3超の関連法人株式等に係る配当・・・「配当額―負債利子」のうちその株式に係る部分
  • 持株比率が5%以上、1/3以下の法人株式等に係る配当・・・配当金額×50%
  • 持株比率が5%未満の法人株式等に係る配当・・・配当金額×20%

完全子法人からのみなし配当であれば、みなし配当を認識したとしても、受取配当金の益金不算入制度により、最終的には課税関係は生じません。

イ. 資本の払い戻しの処理

みなし配当以外の資本の払い戻しの部分の金額は、株式の譲渡対価として処理されます。そのため、株式の譲渡原価と比較して譲渡対価が高ければ譲渡益、譲渡対価が低ければ譲渡損が出ることになります。株式の譲渡損益は、通常の益金、損金のように取り扱われることになります。つまり、株式譲渡益は法人税を増やす方向に処理され、株式譲渡損が生じた場合は法人税を減らす効果となります。

4. みなし配当の留意点

みなし配当は組織再編時などに発生するため、あまり頻度の高い取引ではありません。しかし、だからこそ、みなし配当がなされた場合は気づかずに税金が高額となってしまうといった問題が発生しがちです。実務上、みなし配当を考えるうえで、留意すべき点を4つ紹介します。

(1) 未上場企業のみなし配当の税率について

上場企業の配当金であれば、一律20.315%(所得税および復興特別所得税15.315%、住民税5%)の源泉徴収が取られて、基本的には納税は完了です。一方で、未上場企業の配当金は税務処理が異なる点、注意が必要です。未上場企業の配当金に関しても、上場企業と同様に20.315%の源泉徴収が取られる点は同じです。しかし、未上場企業の配当金は必ず総合課税されてしまいます。総合課税とは、他の所得と合算した所得に所得税率を乗じて課税金額を算出する方式です。

そのため、仮に他の所得が最高税率を超えるような所得を得ている場合、未上場企業の配当金の税率も最大税率である55%が適用されてしまうのです。みなし配当はただでさえ気づきづらい配当金です。自分で経営している未上場企業で組織再編等を行う際は、みなし配当やみなし配当に関する所得税に十分注意するようにしてください。

(2) 合併時のみなし配当について

合併は適格合併と非適格合併の2種類に分類されますが、みなし配当が生じる可能性があるのは非適格合併です。適格合併の場合、資産負債が帳簿価格で存続会社に引き継がれるため、課税関係は生じません。
一方、非適格合併の場合で、株主に対する対価が株式以外の現金等である場合には、状況によってみなし配当が生じます。合併時のみなし配当の計算式は下記のとおりです。

みなし配当金の金額 = 合併対価 ― 被合併法人の資本金等の額×株式保有割合

また、みなし配当金と同様に、合併により株式を譲渡していることになりますので、譲渡損益の計算も必要になります。みなし配当が生じる場合の株式譲渡損益の計算式は下記のとおりです。

株式譲渡損益 = 合併対価 - みなし配当 ― 譲渡原価(株式の帳簿価額)

個人株主の場合は、みなし配当金と株式譲渡損益を計算し、確定申告時に申告納税する必要があります。みなし配当は上述のとおり総合課税、株式譲渡損益は分離課税である点に留意が必要です。みなし配当の論点は税務が複雑になりがちですので、金額が大きい場合は、税理士に相談するのも一考です。

(3) みなし配当を用いた節税スキーム

2002年、米国IBMがみなし配当と連結納税の仕組みを利用して巨額の節税を行いました。国税局は約4,000億円の申告漏れがあったとして、IBM社を訴えました。長年続いた裁判でしたが、結果としては、2016年2月18日に下された最高裁判所の上告不受理決定により、原告者(納税側であるIBM)が勝訴しました。みなし配当と連結納税を利用した節税スキームは、当時よりも規制が厳しくなっている影響で、現在は実現することはできなくなっています。

(4) 種類株を発行している際の計算

自己株式を取得する際など、その法人が種類株式を発行している場合は、みなし配当の計算に注意が必要です。種類株を発行していると、種類資本金額として、種類株ごとに資本金の額をそれぞれ管理することになります。つまり、複数種類の自己株式を取得する場合、種類株ごとにみなし配当金の計算が必要となります。種類株式を複数発行している場合は、慎重にみなし配当の計算を行うようにしましょう。

5. まとめ

今回はみなし配当について、定義、どんな時に発生するのか、計算方法、税務処理、実務上の留意点を解説してきました。みなし配当は組織再編時などに発生する論点で、あまり見かけることは少ないかもしれません。しかし、みなし配当が発生した場合は意外なところで多額の納税が発生する可能性があります。みなし配当が生じそうな取引を自らが行う場合や、出資先の組織再編時などは、顧問税理士などにアドバイスを求めると良いでしょう。

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