M&A

ZOZOとYahoo!のM&A事例を紹介します

2019年9月、ファッションブランドのネット通販大手のZOZOと、ポータルサイトYahoo!Japanを有するヤフー(現:Zホールディングス)との間である締結がなされました。それはヤフーがZOZOを買収するというものでした。

ネット通販事業(以下EC事業)ではライバルといえる企業間のМ&Aでかつ、気鋭の起業家が率いるZOZOが他社の傘下に収まるという合意には、どのような背景があったのでしょうか。
これは両社のこれまでの経緯と、現状の課題をふまえると理解することができます。またこのМ&Aにて両社と消費者にとってどのようなメリットが生まれてくるのかも気になるところです。

そこで今回の記事ではZOZOとヤフーがМ&Aをすることになった背景について解説します。
さらにこの合併によって生じる影響についても解説します。

1.ヤフーがZOZOを買収し子会社にした

はじめにこのМ&Aの概要をおさらいしましょう。
2019年9月12日ヤフーからZOZOに対して「公開買付(以下TOB)の開始予定と資本業務提携契約の締結」の発表がありました。
それに対してZOZOからは資本業務提携の決定と公開買付への賛同が表明されたのです。

さらに同日、ZOZOは創業者である代表取締役の前澤友作氏が退任し、澤田宏太郎氏が引き継ぐことが発表されました。

この後、ヤフーによるZOZOの株式買付が9月30日から11月13日の間で行われました。その結果ヤフーはZOZOの株式の過半数を取得したとして、ZOZOはヤフーの連結子会社になったのです。

※TOB(株式公開買付)とは TOBとは上場企業の株式に対して、株価・株数そして期間を公表して株式市場外で株式を買い取る手法で、(Take Over Bid)の略称です。
М&Aや組織再編だけでなく、経営陣による上場廃止で使われます。またTOBを実行するには投資家保護の観点から様々な要件を満たす必要があります。

(1)ヤフーは検索サイト運営から始まった総合ネットサービス企業

次にこのМ&Aに関わった両社について解説します。
ヤフー株式会社は1996年、当時アメリカでインターネット検索の最大手であったYahoo!がソフトバンク株式会社(以下ソフトバンク)と合弁して設立されました。

そしてヤフーはインターネット検索サイトから総合情報・サービスのポータルサイトに軸足を移していきました。その結果1日に10億を超えるアクセスを受ける日本最大級のインターネットサービス企業へと成長したのです。

そして2019年10月に組織改革が行われ、現在は他の関連会社とともにZホールディングス株式会社の子会社という位置づけになっています。

(2)ZOZOはアパレルEC事業の風雲児

ZOZOは1998年、輸入CD・レコードの通信販売を行う「有限会社スタートトゥデイ」がビジネスの始まりでした。
2000年に入ってからはインターネットを使った通信販売を開始しました。そして2004年、総合ファッションショッピングサイト「ZOZOタウン」の運営を始めたのです。

その後ZOZOタウンの事業が成功し、EC事業支援、古着売買など各種サービスを展開していったのです。
なお現在の社名であるZOZOは2018年に変更されました。

(3)ヤフーはZOZOの筆頭株主から全株式の30%を取得する合意を得た上でTOB

ヤフーによるZOZOへのTOBは敵対的なものではなく、成立はほぼ確実視されていました。
なぜなら創業者でかつ筆頭株主である前澤友作氏が意図したTOBだったからです。TOB開始前、前澤氏はZOZO株式の37%以上を保有していました。
そしてヤフーからのTOBに対して30%分を売却することを契約したのです。

これによってヤフーはZOZOに対して筆頭株主となり、組織的には関連会社という位置づけになることが確定していたのです。

(4)株価の妥当性に不安があったもののTOBは成功する

ヤフーが提示したTOB価格も妥当なものでした。
提示株価である2620円はTOB発表から過去6ヶ月の株価推移から20%~30%上乗せされた株価です。これはTOBにおいて一般的に見られる株価水準です。

ところが2017年から2018年にかけてZOZOの株価は3000円~4000円程度で推移していました。したがってZOZO株主がこのTOBに応じるか不確かな部分もあったのです。

このようにTOB価格に不確実な部分を残しながらも、最終的にはヤフーによる株式の買い付けは成功しました。前澤氏が積極的に進める友好的TOBであったことに多くの投資家が賛同したのです。

(5)ヤフーは親会社ではあるが運営は現行の役員を維持

このTOBにてヤフーは経営の主導権を握ることになりました。しかしこの契約ではZOZOに対して経営の独立性を担保するためにガバナンスに関して以下のような合意があったのです。

  • ヤフーから指名できる取締役は2名まで
  • 社外取締役を3分の1以上配置する
  • 取締役会に参加できるオブザーバーをヤフーが2名まで指名できる
  • 退任する前澤氏を除くZOZOの取締役は経営に関与し続ける

この合意から察するに、ZOZOはこれまでに培ってきたビジネスモデルを崩すことなく、ヤフーとの融合を図っていくことが求められたのです。

2.なぜZOZOはヤフーの子会社になったのか?

このようにヤフーとZOZOにおけるМ&Aは無事に終わりました。
ではなぜヤフーとZOZOはМ&Aをする必要があったのでしょうか。ここからはヤフーとZOZOのМ&Aの真意について両社の立場から解説します。

(1)ZOZOは新規顧客獲得に協業者を求めた

ZOZOは若い女性を中心に顧客を増やすことで業績を伸ばしてきました。
しかし同じ客層だけで売上を伸ばすには限界があります。だからといってこれまでに対応したことが無い客層に新規参入することは容易ではありません。
そこでZOZOは自社の不得意な分野を補完できる企業と提携することで事業の拡大を目指すのです。

(2)ZOZOは事業規模の拡大にともなう組織再編の必要性があった

ZOZOは前澤氏というカリスマ経営者が先頭に立って事業を拡大してきました。
しかし従業員、株主、そして取扱いメーカーなどが増えていくことで、社内外の環境が大きく変化していきました。

実際、近年のZOZOはプライベートブランドやZOZOSUITの発売にて、顧客や取引アパレルブランドの反感を買う結果に終わりました。
これも全てのステークホルダーに配慮しきれなくなっている証左なのです。

(3)ZOZOの筆頭株主だった創業者に意識の変化

前澤氏自身も、上記で解説したZOZOの課題を認識していました。前澤氏がインターネット上に公開している手記では以下のようなコメントが書かれています。

  • 現場レベルの業務・開発が回れば問題は起きない
  • ワンマントップダウン経営では限界がある
  • 現場のチーム力を活かした組織型経営への移行が急務
  • 前澤氏は2019年9月12日の時点で辞任する

引用元:https://note.com/ysk2020/n/n3e95db525b30

このように前澤氏はZOZOの課題を認識したうえでヤフーの傘下に入ることを決断しました。
さらにZOZOはすでにカリスマ社長が機関車の様に皆を引っ張る組織ではなく、新幹線の様に皆が力を出し合って運営する組織に変わっていることに気付いていたのです。

また前澤氏は近年、美術品の購入や宇宙旅行を計画するなどZOZOの成長とは違ったところに注力したい気持ちが出ていたことも株式売却の伏線になっていたと推察されます。

3.なぜヤフーはZOZOを子会社にしたかったのか?⇒ライバル企業との差別化

一方でヤフーはZOZOを買収することにどのような狙いがあったのでしょうか。
ヤフーはインターネットポータルサイトとして国内では不動の地位を得ています。それでもヤフーが手を出せなかった分野で様々なライバル企業が成長しています。
ヤフーにとってZOZOを傘下に治めることは自社の不得意分野を補完し、他社が真似できないZOZOのビジネスモデルを得て差別化を図ることになるのです。

(1)若者向けファッション通販事業の強化

ヤフーはインターネット草創期からポータルサイトとして大きな役割を果たしてきました。そのせいもあって古くからのユーザーが多くを占めているのです。具体的には30~40代の男性で、若い頃からインターネットを使いこなしヤフーを当たり前のように使い続けているのです。

一方でより若い世代は、ヤフー以外のインターネットサービスを使うユーザーがたくさんいます。さらにヤフーではレディスファッションのラインナップが弱かったため、ZOZOをМ&Aすることは弱点の強化につながったのです。

(2)受託販売のビジネスモデルへの展開(フルフィルメントサービス)

ヤフーに無くて、ZOZOが持っている強みに「受託販売」があります。
ZOZOはアパレル業界の特性を活かして、ファッションブランド各社から商品を一手に引き受けて販売してきました。
そして「ZOZOを見れば色んなブランドを同時に比較できるので、自分の欲しい一着が見つかる。しかも格安で。」という顧客の需要を満たすビジネスモデルを構築していたのです。

このようなビジネスモデルは他のライバルEC企業でも行っていないビジネスモデルでした。似たような形としてAmazonが考えられますが、アパレル業界に特化していなかったためZOZOの後塵を拝していたのです。

ヤフーはZOZOの完成度の高いビジネスモデルを手に入れることで、他のEC事業への応用も検討するかもしれません。

(3)ブランド古着の売買事業の強化

さらにZOZOは古着の売買も請け負っていました。
古着ビジネスでもZOZOがいったん買取った後、販売するという形です。
このビジネスモデルはヤフーが運営するオークションサイトや他社のフリマアプリと違い、ユーザーが在庫を抱える必要がありません。
またZOZOがいったん古着を買い取るため古着といえども価格と品質の誤差が少ない点もフリマアプリとの差別化ができるのです。

4.Yahoo!JapanとZOZOが1つになって変わること

では、ヤフーとZOZOが関係を深めることで私たちにどのような影響を及ぼすのでしょうか。それは互いのサービスを融合することによる利便性の向上です。そして人口がピークアウトしている日本市場における流通市場の潮流を示唆するものなのです。

(1)ZOZOの商品をPayPayで購入できる

この度のTOBにて、ヤフーの属する「ソフトバンクグループ」が展開するECモールにZOZOが参入することが決まっています。
これによって両社は顧客数と利益が急増すると推測しているのです。

この推測には根拠があります。ヤフーはソフトバンクグループとして多くのスマートフォンユーザーを抱えています。
さらソフトバンクグループはQRコード決済でトップシェアの「PayPay」を有しているのです。

両社のМ&AによってPayPayでZOZOの商品を購入することが可能となり、多くのユーザーにとって利便性が向上し、業績が伸びると推測されます。

(2)ソフトバンクグループ経済圏のさらなる構築

市場が成熟した日本の流通業界では大手各社による経営の統合が進んでいます。
例えば、イオンやセブン&アイでは様々な業種・業態の小売りを子会社化しています。
またEC関連では楽天が携帯電話市場に参入ています。これは流通大手各社が独自の「経済圏」を構築することで限られた顧客を取り込んでいこうとしているのです。

この度のヤフーとZOZOのМ&Aはこのような潮流の中で起こるべくして起きた締結だといえます。
そして私たちにとっては自分の生活に合った「経済圏」はどこなのか?を考え直す機会にもなった事例なのです。

5.ヤフーとZOZOのМ&Aは日本のEC市場の拡大を促すもの

今回はヤフーとZOZOのМ&Aについてその経緯と背景、そして今後の影響について解説してきましたがいかがでしたでしょうか。
今回の記事のポイントは以下の通りになります。

  • 2019年9月ヤフーはZOZOを子会社とすべく株式の買い付けを発表した
  • ZOZOは筆頭株主も進んで株式を売却し、ヤフーの子会社となった
  • ヤフーはZOZOの現行役員に運営を任す形で子会社化した
  • ヤフーはネット界のガリバー、ZOZOはニッチトップの存在
  • ヤフーは弱点の強化、ZOZOは自社の成長にパートナーを探していた
  • ヤフー(ソフトバンクグループ)の顧客がZOZOで買物がしやすくなる
  • ヤフーは日本のEC市場で更なる顧客の囲い込みを狙う

このМ&Aでヤフーは過去最大資金を投入しました。
その背景にはZOZOの優れたビジネスモデルを争わずして得るために必要な金額だという考えがあったと思われます。
今後ヤフーがZOZOをどのように操縦するかによって、日本のEC市場が大きく変わっていくのではないかと期待されます。

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