M&A

コロナウィルスによるM&Aへの影響について解説します

2020年はコロナの年と言ってもいいかもしれません。コロナウィルスは飲食店、不動産業、旅行業、個人事業主、など数々のビジネスにネガティブな影響を与えています。
今回はコロナウィルスがM&Aに与える影響について考えてみましょう。

1. バリュエーションに与える影響

M&Aの交渉がまとまるかどうかは、さまざまな要素により決定されますが、中でも買い手と売り手のバリュエーションが合うかどうかはとても重要です。
コロナウィルスの件で全体的にバリュエーションが下がっていると考えるのはもっともなことですが、実はそうとも言い切れません。リーマンショックの時は、世界的に全ビジネスに対してネガティブ影響があり株価も全業種で下がっていたのですが今回は違います。
ネガティブな影響のあるビジネスとポジティブな影響のあるビジネスに分類して説明していきます。

(1) コロナウィルスがネガティブな影響を与えるビジネス

上場企業においても、飲食店、百貨店などのリアル店舗を使うビジネスや中国に工場を持っている企業などは株価を大きく下げている傾向にあります。また、個人事業主や小規模事業者にとっても少し業績が下がってしまうだけで、資金繰り等に大きく影響を与えています。
また、経済全体が停滞することで、各企業は広告支出を抑える、人材採用を抑えるといったアクションになるため、電通などの大手広告代理店、リクルートなどの大手人材紹介会社も株価は下落傾向です。
結論として、輸出入を行う必要のあるビジネス、リアル店舗を使う事業、広告や人材系のビジネス、中小事業にとってコロナウィルスはこれ以上ない逆風であり、ネガティブな影響を与えています。
これらの事業に関してはM&Aのバリュエーションも、状況を反映して安くなる方向に働きます。

(2) コロナウィルスがポジティブな影響を与えるビジネス

他方でコロナウィルスがポジティブな影響を与えているビジネスもあります。
多くの企業が在宅勤務体制に移行しており、在宅勤務に関するビジネスを行っている企業の上場企業の株価は年初来高値を更新するなど、勢いよく株価は上昇しています。
例えば、オンラインMTGを簡単に実施できるZoom(ZM)、オンライン上で契約書のサインを可能にするDocuSign(DOCU)、簡単EC作成サービスのShopify(SHOP)などです。また、日本においてはオンライン診療がスタートされましたが、インターネット×医療のビジネスを営んでいるメドレー(4480)も株価は2倍近くに跳ね上がりました。

2. 買い手の投資意欲について

M&Aの買い手の心理状況にも以前よりも変化が生じています。
コロナウィルスの状況がいつまで続くかは誰も分からず、不透明な状況が続いています。「With コロナ」という新たな言葉が生まれるとおり、これから2年程度はコロナと一緒に生きていく必要があると提言している専門家も数多くいます。
このような中で、今までと同じように投資活動を続けていくにはリスクが高すぎると考えても何ら不思議ではありません。
積極的なM&Aを進めることで大きな成長を遂げた日本電産(6594)の永守氏ですら、「キャッシュ・イズ・キング」として投資を控えると言及しています。
(出典:2020年4月20日 日経新聞 日本電産・永守氏、新型コロナ「利益至上」見直す契機コロナと世界(9))

3.M&Aプロセスへの影響

コロナウィルスの影響は、M&Aプロセス自体にも影響を及ぼしています。
これからM&Aの交渉をする場合と、決着済みM&Aの場合の2通りに分けて見ていきましょう。

(1) これからM&Aの交渉をする場合

M&Aとは、これから一緒に仕事をしていく仲間を作るということでもあり、相手の経営者が何をどう考えていて、何を大切にしているかなどの理解なしには、交渉を先に進めることはできません。
そのため、M&Aのプロセスの中でも経営者同士のトップ会談は大きな意味を持っています。
しかしながら、コロナウィルスにより最も避けるべきことは、人と会うことです。 通常、トップ会談はFace to Faceで実際の空間に一緒にいながら、本音をぶつけ合いますが、コロナの状況により簡単には実現できなくなりました。
親睦を深めるための会食も余計に困難な状況となってしまいました。
また、デューデリジェンスにおいても資料が紙でしか存在しない場合や、実際に工場見学などができないなど、さまざまな弊害もあります。
日本国内はもちろんのこと、クロスボーダーのM&Aは事実上、凍結している状況ともいわれています。明らかにクロスボーダー案件などやっている場合ではないということでしょう。相手先の国が日本よりも深刻なコロナの状況であればなおさらです。
以上のように、コロナの中では、M&Aの交渉プロセスにも大きな影響があり、M&Aが実現しづらい状況と言えるでしょう。

(2) 決着済みM&Aの場合

コロナウィルスの影響により大幅な株価下落や企業業績の悪化が、決着済みM&Aにも影響を与えています。
ジャパンディスプレイを支援するいちごアセットマネジメントは買収価格を3割引き下げる合意を締結しました。
また、MAC条項(重大な悪影響・悪影響があった際はM&A契約締結後であっても、M&Aから撤退できる)を使い、買い手がM&A自体をストップさせるというケースも出始めています。
ゼロックスが同業のHPの買収を直前で取りやめるという事例もあり、今後も同じようなケースが出てくるものと想定されます。

4.どのようなM&Aが増えるか

今までは主にコロナウィルスの影響により、M&Aのバリュエーションが下がる、中止になる、交渉が難しくなる、といった主にネガティブな面について説明してきました。
他方で、ビジネスの規模や業種によってはM&Aが起こりやすくなる業種もあると考えられています。

(1) 資金繰りの厳しくなった中小企業

1(1)でも説明したように、中小企業をめぐる事業環境は非常に厳しいものがあります。
日本においては、中小企業や営業を自粛した事業者に対して補助金を投入するといった対策をしていますが、決して十分な金額ではありません。数多くの事業者がコロナウィルスによって、破産もしくは自ら事業廃止を決断しています。
しかし、資金の潤沢な買い手にとってはこの状況はチャンスとも言えます。大手上場企業は投資抑制の傾向はありますが、未上場企業や資金を自由に使える個人事業主は、買収対象先のバリュエーションが下がりやすい今は良い機会です。
中小企業のM&Aが伸びると考えられていることから、中小企業のM&A仲介を専門とする日本M&Aセンター(2127)、M&Aキャピタルパートナーズ(6080)、ストライク(6196)は株価が回復傾向にあります。
コロナ影響により資金繰りに行き詰った企業を救済するといった形のM&Aは今まで以上に増えると予想されています。

(2) 大手企業によるスタートアップの買収

スタートアップは、VCやエンジェル投資家から資金調達して、素早いスピードで成長していますが、次のラウンドで資金調達できるかどうかは不透明な状況となりました。
コロナウィルスの影響はVCやエンジェル投資家にも影響を及ぼしており、彼らの投資意欲も減少しているようです。
今までの経済状況では、調達できていたと予測されるスタートアップが資金調達できずに破産を選ぶケースが出てくるものと想定されます。
例えば、ソフトバンクグループ(9984)が出資しているイギリスのOneWeb社も、資金調達することができずに破産申請を行っています。
今後、資金調達できなかったスタートアップを救済するため、以前よりも安いバリュエーションで買収するケースが出てくるのではないでしょうか。
ただし、スタートアップの中でも創業間もないシード期の企業の資金調達にはあまり影響がないのではとも言われています。
シード投資は経済状況にあまり連動されず、バリュエーションが安いこともあり、若い起業家には引き続きチャンスは広がったままです。
コロナで実際に会いづらい分、独立系ベンチャーキャピタルのANRIなどは一度もリアルで会わずに投資するとも明言しており、ベンチャー業界のアクションにも変化が見られます。

(3) With コロナ事業の買収

インターネット関連事業者はコロナ禍でも受注増の影響により、業績を伸ばしている企業も数多くあります。
そのような企業が次に投資すべき事業は、With コロナの時代にも継続して成長を続けられるような企業です。
在宅勤務支援の会社やオンライン教育、オンライン医療、など今まであまりオンライン化していなかった業界に対する投資やM&Aは、今まで以上に注目されるはずです。

(4) ネガティブな影響を受けているもの同士がくっつくケース

コロナウィルスが地銀に与える影響を想像してみましょう。
地銀は個人から預金を預かり、預かった資金を中小企業に融資し利ザヤを抜くことを本業としています。
コロナウィルスは中小企業に厳しく、地銀からお金を借りていたとしてもきちんと返済できなくなるケースが増加すると予想されています。
すると、地銀は貸倒引当金の積増しや貸倒損失といった損失を計上しなければならず、地銀にとってもコロナウィルスはネガティブな影響と言えます。
地方経済の厳しさから地銀同士がくっつくM&Aの事例は増加傾向にありますが、コロナ禍でその流れが加速する可能性もあります。

5.まとめ

M&A実務担当者の中には、今まで長い期間交渉を続けていたディールが中止になって、ショックを受けている人もいるかもしれません。
コロナウィルスによるM&Aへの影響は、ネガティブなものも多いですが、中にはポジティブな影響もあることは事実です。
救済型のM&Aやスタートアップの買収、With コロナ時代に即した会社の買収など、今までとは違ったM&Aがニュースになることが多くなるでしょう。
コロナウィルスは明らかに今までのゲームとは異なった世界を我々に見せてきています。これをピンチととらえるかチャンスととらえて行動するかによって、将来はだいぶ異なったものになるでしょう。
M&A実務担当者のみなさまへ、今後のM&Aにどのような影響があるかにつき考えるきっかけとなり、参考となりましたら幸いです。

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