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スクイーズアウトとは? 特別支配株主の株式等売渡請求によるスクイーズアウトの事例を紹介します

M&Aにおいてスクイーズアウトという言葉を聞いたことがあるでしょうか?あまり事例としては多くはありませんが、実務上知っておいて損はない制度です。
今回はスクイーズアウトの定義、実施する目的、必要手続、事例紹介など具体的に解説していきます。

1.スクイーズアウトとはなにか

スクイーズアウトとは、対象会社の持株比率を100%とするため、少数株主に対して金銭等を交付して強制的に株主を大株主のみとする手法のことを言います。

持株比率を100%にすることを完全子会社化するとも言いますが、スクイーズアウトを使わずとも、少数株主と個別に交渉し株式譲渡を行うことでも実現可能です。
例えば、少数株主が3名しかおらず、金銭的にも揉めるリスクも小さい時は、任意に株式譲渡を進める方が手続としては簡便です。

しかし、少数株主が1,000名など多数に渡っており、個別に任意買取することが現実的に不可能な場合は、スクイーズアウトが活躍します。

2.スクイーズアウトを実施する目的

スクイーズアウトの目的は様々な事が考えられますが、代表的な例は下記のとおりです。

  • MBO(Management Buyout)実現のため
  • 100%子会社化を実現し連結納税制度を適用させるため
  • 少数株主の数が多すぎて、管理コスト削減のため
  • バラバラに分散した株式を創業者に集めて、迅速な意思決定を可能とさせるため
  • 合併の前段階として100%株式を集めておきたい

共通していることは100%子会社にしたい理由があること、個別に株式譲渡を進めるだけでは100%子会社化が実現できないこと、となります。

3.スクイーズアウトの必要手続

スクイーズアウトは株式交換、全部取得条項付種類株式の端数処理による方法、株式併合の端数処理による方法、株式売渡請求による株式の取得の4つの種類に分かれていますが、ここでは最も一般的に使われている特別支配株主の株式等売渡請求(会社法第179 条)を見ていきましょう。

使用できる前提は、特別支配株主であることです。
特別支配株主とは、株式会社の総議決権の90%以上を有する株主のことを言います。スクイーズアウトの必要手続は下記のとおり6つのステップに分かれています。

(1) 特別支配株主から対象会社への通知

最初に実施することは、特別支配株主から90%以上の持株比率がある対象会社へ、売渡請求の条件を通知することです。売渡請求の条件とは、価格、価格算定方法、株式取得日等が含まれます。

(2) 対象会社による機関決定

対象会社が取締役会設置会社である場合は取締役会の承認を受ける必要があります。

特別株主は対象会社の株式を90%以上持っていることが前提ですので、取締役も特別株主の意思を汲んだ者が就任していると考えられますので、この承認は特に問題なく可決する場合の方が多いでしょう。

(3) 少数株主に対する通知・公告

対象会社による機関決定がなされた後は、少数株主に対して特別支配株主の氏名、住所、取締役会での承認を得た旨、売渡請求の条件などを通知する必要があります。

こちらの対象は現物株式だけでなく、新株予約権も含まれます。100%子会社化しても行使可能な新株予約権が残っていては、いつ100%が崩れてしまうかも分からず、不安定な状態となってしまうためです。

(4) 事前開示手続

対象会社は、少数株主への通知から株式取得日後6か月まで、(3)で通知した内容が記載されている書面を本店に備え置く必要があります。少数株主から依頼があった場合は、書面を閲覧させることとなります。

(5) 特別支配株主による株式取得

特別支配株主は、あらかじめ定められた株式取得日に株式の全てを取得し持株比率が100%となります。
また、未上場会社のほとんどは、定款の定めによって株式譲渡制限を行っていることが一般的ですが、譲渡制限がある場合でも、スクイーズアウトの際は譲渡制限の承認手続は必要ありません。

(6) 事後開示手続

対象会社は事前開示手続と同様に、株式取得日から6か月間、取得した株式数など法務省令で定められた事項を記載した書面を本店に備え置きます。こちらも少数株主から依頼があれば、書面を閲覧させる必要があります。

4.少数株主としての対応策

持株比率が90%以上ある特別支配株主がスクイーズアウトを行ってきたら、少数株主としてはおとなしく従うしかないのでしょうか。会社法上、少数株主の対抗策がいくつか定められていますので見ていきましょう。

(1) 売渡株式等の取得をやめることの請求

少数株主は、法令違反がある場合、少数株主への通知や事前開示手続がなされなかった場合、売買価格等の条件が著しく不当な場合、スクイーズアウトをやめさせることを請求することができます。
特に売買価格等に不服がある少数株主は裁判所に対して売買価格を決めてもらうよう申し立てることができます。

(2) 売渡株式等の取得の無効の訴え

スクイーズアウトが実施されてしまった場合は、売渡株式等の取得の無効の訴えを起こすことが可能です。
ただし、いつでも起こせるわけではなく株式取得日から6か月間であることが条件です。(1)と同様に法令違反がある場合や売買価格等が著しく不当な場合が対象となります。

(3) 取締役の善管注意義務違反による責任追及

合理的な理由なく、特別支配株主からの売渡等請求を対象会社の取締役会で承認された場合、取締役への責任追及を行うことが考えられます。
(1)や(2)の方法に比べて、スクイーズアウト専用の方法というものでなく、一般的な責任追及の手法となります。

5.スクイーズアウトの事例

ここでは実際に特別支配株主の株式等売渡請求によるスクイーズアウトが行われた事例を3つほど紹介します。

(1) マーレジャパン株式会社×国産電機株式会社

マーレジャパンはドイツの大手自動車部品メーカーであるマーレの日本子会社ですが、2017年6月に国産電機株式会社の株式をTOBにより90.12%取得しました。

国産電機株式会社は、電装品と発電機、モーターを製造するメーカーです。90%以上取得したことにより、マーレジャパンは特別支配株主に該当することになります。同月、株式等売渡請求によるスクイーズアウトの手続を進めることを決定しています。

株式取得日は2017年7月と1か月後の日程が設定されており、TOB完了後からスピーディなディールとなりました。
なお、売渡請求の株価条件の公平性を担保するため、国産電機はSMBC日興証券から株価算定書を取得しています。

(2) ガンホー×ゲームアーツ

ガンホーはパズドラのヒットで有名なゲーム会社ですが、2005年10月にゲームアーツというゲーム制作会社を買収しています。

2015年11月、ガンホーはゲームアーツの株式97.88%を保有していましたが、株式等売渡請求によるスクイーズアウトを行いました。2015年12月に無事、スクイーズアウトが完了しゲームアーツ社はガンホーの完全子会社となっています。

スクイーズアウト前は2.22%のみの少数株主を残したまま事業運営がなされていましたが、少数株主の数が多く、株主総会対応などのコストが無視できないほどの規模になってしまっていたため、スクイーズアウトを実行した事例となります。

(3) ビットアイル×QAON合同会社

ビットアイルは元々データセンター事業などを営む東証一部上場企業でした。
2015年11月にアメリカデータセンター大手企業のエクイニクスグループ企業であるQAON合同会社がTOBをしかけました。TOBの結果、QAON合同会社は、ビットアイルの株式96.83%を取得しました。

その後、QAON合同会社は2015年12月に株式等売渡請求により、ビットアイルを完全子会社化しています。ビットアイルは同月に上場廃止となり、2017年1月にはエクイニクスジャパン株式会社と合併しています。

6.スクイーズアウトの注意点

90%超の持株比率を獲得しスクイーズアウトを行えば、比較的容易に完全子会社化が達成されます。一方で、下記のとおり3点ほど注意点があります。

(1) 価格は決められるが非合理的な価格は付けることはできない

スクイーズアウトの買取株価は、主導権を握っている特別支配株主が決めることができます。特別支配株主は買手であり、できるだけ安く買いたいのは当然です。

一方で、少数株主には、売渡株式等の取得をやめることの請求などの対抗策があるため、あまりに非合理的な価格は付けられないのが現実です。

上場企業などがスクイーズアウトを行う場合は、第三者機関からバリュエーションレポートを取得するケースが通常です。バリュエーションはDCF法が適用されることが多いようです。
一方で未上場企業が小規模のスクイーズアウトを行う場合は、修正純資産法などより簡易的なバリュエーション手法を使うこともあります。

いずれにせよ、スクイーズアウトを実施しようとしている特別支配株主は、価格は非合理的なものは付けられないことには注意しておきましょう。

(2) スクイーズアウトによる少数株主の課税

株式等売渡請求によりスクイーズアウトが実現した場合、少数株主は特別支配株主に株式を売却していることになります。

この時、株式の譲渡損益が発生し通常の課税対象となることに注意が必要です。法人の場合は法人税、個人の場合は所得税の対象となります。
特にスクイーズアウトにより、多額の売却益が生じた場合は決算または確定申告の際に、税金の存在を忘れないようにしましょう。

(3) 事務手続の煩雑性

スクイーズアウトの実務は多岐に渡っており、難易度も低くはありません。一方で会社法上の行為であるため、一つでも必要な手続が漏れてしまうと無効の訴えを起こされる可能性が残ってしまいます。

きちんと漏れなく手続を完了させるためには、弁護士、税理士といったプロフェッショナルに相談するのが一般的です。

7.まとめ

今回はスクイーズアウトを実務の現状を交えながら解説してきました。スクイーズアウトの手法や手続は多様性があり、複雑なものですがきちんと行う必要があります。

90%超の持株比率があり、完全子会社化を目指したい場合は、まずは株式等売渡請求を使ったスクイーズアウトを検討してみてはいかがでしょうか。当記事が実務ご担当者の助けに少しでもなっておりましたら幸いです。

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