M&Aにおいて、M&Aの成立より重要なのはPMIとされています。
Post Merger Integration(PMI、M&A成立後の統合過程)は、M&Aによって生まれるはずのシナジーを現実のものにするプロセスなので、これが成功しないと、コストと労力と時間をかけてM&Aをした意味がなくなってしまいます。
ところがM&Aはそれ自体が大変な作業なので、経営者によってはM&Aが成立した段階で気が緩んでしまい、PMIが疎かになり本来の果実が得られない事態に陥ることがあります。
この記事ではPMIの基礎知識を紹介したうえで、PMIの課題とそれをクリアする方法を解説します。
さらに、弊社パラダイムシフトが伊藤忠ファッションシステム株式会社と組んで行っている、アパレル販売店様や百貨店様へのデジタル化支援についても紹介します。
デジタル化支援は、国の重要政策であるデジタルトランスフォーメーション(DX)に深く関わる事業であり、これからのPMIで重要な位置を占めるようになるでしょう。
1.PMIの3本柱は「人」「業務」「インフラ」
「M&Aが成功した」という言葉には、次の2つの意味があります。
- 最終譲渡契約が締結され、クロージング(完結)した
- M&Aのシナジーが生まれ買手企業も元の売手企業も「果実」を手にした
M&Aを進める企業の経営者にとって、後者のほうが重要なはずです。
なぜなら、クロージングしただけでは、法律的に2社が1社になったり、A社がB社の子会社になったりしただけだからです。
M&Aの目的は、シナジーを実現させることのはずです。シナジーとは、買手企業にとっては業績を伸ばすことであり、元の売手企業の社員たちにとっては、やりがいをもって再出発できることです。
それにはM&Aがクロージングしたあとに、人事政策、業務改善、インフラ整備に着手しなければなりません。
この3つがPMIで「やること」になります。
(1)PMIにおける人事政策とは
M&A後にはどうしても「買ったほうの社員、買われたほうの社員」という意識が残ってしまいます。その意識が高じると、禍根が残ったり派閥ができたりして、企業活動の停滞を招きます。
そのためM&A後の人事政策は、平等、公正、透明化が求められます。優秀な人材は、買手企業の社員でも元の売手企業の社員でも、等しく重用されなければなりません。
(2)PMIにおける業務改善とは
M&A後にはどうしても業務の重複や無駄な業務が発生します。PMIは業務改善の最大のチャンスです。なぜなら、自社ではなかなか気がつかない自社の欠点を、他社ならすぐに見つけることができるからです。M&A直後は相手の欠点がよく見える時期なので、業務改善を一気に進めましょう。
(3)PMIにおけるインフラ整備とは
M&A後にはどうしても、営業拠点やコンピュータ・システムなどのインフラで過不足が生じます。PMIは社内インフラを一気に更新する最大のチャンスです。
例えば、買手企業にも元の売手企業にもサーバーがあった場合、どちらも廃止してクラウドを導入することを検討してみてはいかがでしょうか。
事務作業のAI処理化やテレワークの推進といった、「切っ掛け」がないとなかなか着手できなかった大規模インフラ投資も、PMIを機に進めることができます。
(4)M&Aの着手と同時にPMIを進める
PMIはM&A成立後の統合過程であると同時に、大きくなった企業の人事改革・業務改革・インフラ改革に着手するまたとないチャンスになります。
PMIを、企業の成長戦略を断行する期間にすることもできます。
買手企業は、M&Aに着手すると同時に、PMI戦略を描き始めたほうがよいでしょう。
2.PMIの課題とそれを乗り越える方法
PMIの課題には精神的なものと物理的なものがあります。
人事改革は、精神的なものといえます。インフラ改革は、物理的なものといえます。
そして業務改革は、精神的な課題と物理的な課題の両方に関わります。
(1)精神的な課題はトップが解決する
M&A後の社内で、買手企業の社員が発注者のように振る舞い、元の売手企業の社員が下請のように働くことは避けなければなりません。
社内を融合させるカギは、トップの態度と決断です。
買手企業の経営陣が、元の売手企業の役員たちを軽んじたり、降格させたりすれば、それは部長たちにも課長たちにも一般社員たちにも伝染します。それでは、元の売手企業の優秀な社員たちが離脱してしまいます。
買手企業の経営者は、元の売手企業の人材を積極的に重要ポストに登用したほうがよいでしょう。
業務改革でも、精神的な課題が発生します。明らかに、元の売手企業のやり方のほうが合理的なのに、非効率な買手企業の手法を押し通すと、元の売手企業の社員たちのモチベーションは著しく低下します。PMIでは「勝てば官軍」という考え方は捨てたほうが無難です。
もちろん、買手企業の手法のほうが合理的なこともあります。その場合でも、元の売手企業の社員たちにその手法で仕事をさせるときは、丁寧な説明を心がけて納得してもらったほうがよいでしょう。
PMIの早い段階で「買手・売手に関係なく合理的な方法を採用していく会社」という印象を、社員が持てるようにしたいものです。そのためには、買手企業のトップによる精神的なケアが欠かせません。
(2)物理的な課題には大胆な投資が必要
PMIは、古き悪しき習慣を一掃し、新しくて生産性が高いシステムや制度や仕事のやり方を導入するチャンスです。
そのためには、大胆な社内インフラ投資が必要になります。
PMIをスムーズに進めるためにPMI計画を立てますが、ここにインフラの更新計画と予算案も盛り込みます。そうすることでインフラ投資をM&Aコストに含めることができます。
インフラ投資を組み込むことでM&Aコストがかさむわけですが、それが正当な「M&Aの価格」になるでしょう。M&Aの最終目標がシナジーの実現であるならば、インフラ投資は確実に生産性を高めるので、シナジーに数えることができるからです。
また、M&Aで同じ営業エリアに2つの支店ができてしまった場合、どちらかを閉鎖することになります。支店を物理的に閉鎖するにも、人員を異動させるにもコストがかかりますが、これもインフラ投資と考えることができるので、やはりM&Aコストに計上します。
M&Aコストが膨れるほど、コスト回収が困難になるので、シナジーを大きくしていかなければなりません。
大胆な投資は「シナジーを大きくしなければならない」というマインドを経営陣や社員に植えつけるはずです。
3.伊藤忠FSと共にファッション界のPMIソリューションを提供
パラダイムシフトは2020年8月、ファッション界のマーケティング企業、伊藤忠ファッションシステム(以下、ifs)と業務提携しました。
ifsは、伊藤忠商事株式会社の子会社で1971年に設立しました。
パラダイムシフトはこれまで、IT領域に特化したM&Aアドバイザリー事業とPMI支援事業を手掛けてきました。そしてこの知見をファッション界やアパレル業界に活かしていきたいと考えていました。
ifsは、ファッション・アパレル企業のブランディングやマーケティングをお手伝いする会社です。
両者が協力することで、ファッション・アパレル企業を、ブランディング、マーケティングから、M&A、PMIまで一貫してサポートできます。
(1)ファッション・アパレルにこそM&Aが必要
ファッション・アパレル業界は、長期の業績不振に悩む企業が多く斜陽産業と呼ばれることが少なくありません。しかし個々の企業をみると、魅力的な商品を生み出していることがわかります。また消費者のファッション需要は依然強く、日本の衣料市場は拡大傾向にあります(*1)。
つまり、ファッション・アパレル各社は、まだまだ多くのビジネスチャンスを掘り起こすことができるはずです。
それでもファッション・アパレル業界の企業の経営が安定しないのは、事業規模が小さい会社が多いうえに、ファッションは流行り廃りが激しいという事情もあります。
ファッション・アパレル業界にこそ、M&Aが有効であるといえます。M&Aで事業規模が拡大すれば経営が安定しますし、M&Aで得意分野が増えればラインナップが増えブランドの魅力が強化されます。
*1:https://senken.co.jp/posts/fbprofessional-1
(2)ファッション・アパレルにこそDXが必要
企業のデジタルトランスフォーメーション(DX)化は、国の重要政策の1つになっています(*2)。
DXとは、IT、IoT、AI、インターネットなどを活用して、戦略的にビジネスを展開していく企業の取り組みです。
そしてファッション・アパレルの企業こそ、DX化が必要になります。例えばリアル店舗での販売しか行っていない企業は、ネット通販(EC)に活路を見出すことができるかもしれません。衣料のデザインから製造、販売まで行っている企業なら、原材料管理から生産管理、在庫管理、販売管理までを一体的にシステム化することで、生産性の向上とコストダウンを同時に達成できるかもしれません。
ファッション・アパレル業界でM&Aを考えている企業は、PMI計画をつくるときにDXを取り込むことをおすすめします。
ITのパラダイムシフトとファッションのifsの連携チームなら、ファッション・アパレル業界に良質なM&AとPMIとDXを提供することができます。
*2:https://www.meti.go.jp/press/2020/08/20200827001/20200827001.html
4.まとめ~PMIありきのM&Aが理想
シナジーは、M&Aがクロージングした瞬間に自然に湧き出てくるものではありません。M&Aを成立させることと、シナジーを生み出すことは、別の仕事であると覚悟しておかなければならないでしょう。
企業風土も従業員気質もビジネスモデルすら異なる2社が合体して、「1+1」を3や4にしていくには、綿密な「PMI計画」と、買手企業の経営者の「PMI手腕」が必要になります。
PMIありきのM&Aが理想の姿といえます。
ベトナムの製造業のPMIについては、こちらの記事で詳しく解説されています。あわせてご確認ください。
参考:ベトナムニュース【経済】製造業の購買担当者景気指数(PMI)が回復の兆し|ACCESS ONLiNE