CASE 06

株式会社イード

パラダイムシフトは2021年1月に設立10周年を迎えた。設立当時の牟禮知仁代表が通い詰めたクライアントの1つに、M&Aを成長戦略の中核に据えるウェブメディア運営のイードがある。公私の交流で牟禮代表をよく知るイードの宮川社長に、2人の出会いやウェブメディア業界の変遷を振り返ってもらった。

PROFILE

株式会社パラダイムシフト
代表取締役 牟禮 知仁

株式会社イード
代表取締役 宮川 洋

01

中古車と携帯電話

宮川社長と牟禮さんの出会いは2009年と伺いました。牟禮さんはITベンチャーの経営企画室長で、パラダイムシフトを設立する前のお話ですね。どのような経緯だったのでしょうか。
牟禮
中野坂上まで商談で出かけた際、勤め先の創業社長から「近くにオフィスがあるから会ってみたら」と紹介を受けたのがIRIコマース&テクノロジー(現イード)の宮川さんでした。
宮川
その創業社長とは共通の知人を介して知り合いました。非常に商売上手なベンチャーで、見習わなければと思っていたのを覚えています。牟禮さんは私のことをご存じでしたね。
牟禮
新卒で入社したベンチャーキャピタルに勤務していた頃から、宮川さんのことは存じ上げていました。IRIコマース&テクノロジーがIPO候補企業として社内資料にリストアップされていたからです。勝手な片思いですが、初めてお会いするときは「ようやく、あの宮川さんに会えるんだ」とワクワクしました。
宮川
その時は、携帯電話の中古市場のお話をしましたね。日本の携帯電話は価値が高く、海外でも売れる商材だと、そんなお話でした。イードは総合自動車ニュースサイトなどを運営していますが、自動車市場での中古車は実質的にお金と言える価値があります。牟禮さんのお話を伺って、携帯電話の中古市場も自動車と同じ可能性のある分野だと気づきました。とても示唆に富んだお話で印象的でした。

02

ダイレクトメッセージでの再会

牟禮さんの独立後は宮川社長からご連絡されたのでしょうか。
宮川
ある日、TwitterでM&Aの売買情報を投稿するアカウントを見つけました。アカウントがメディア名で登録されていたので運営者の素性はわかりませんでしたが、良質な情報が多くて興味を持ちました。ダイレクトメッセージで「会いませんか」とオファーすると、返ってきたのが「宮川さん、牟禮ですよ!」。驚きました。
牟禮
そうそう。2011年のパラダイムシフトの設立直後です。当時は今のようにM&Aアドバイザリーが乱立していなかったので、珍しく思ってもらえたのではないでしょうか。
宮川
今でこそ日本M&Aセンターなども有名になりましたが、我々にすれば「IT分野のM&A」では牟禮さんは先駆けですよ。それ以来、牟禮さんから投資案件のご紹介を頂いていますが、他の仲介会社に比べると案件のクオリティーは1番です。M&Aの目利き力は、数多くの案件を精査する中でしか身につきません。当時は年300件くらいの持ち込みを検討していました。良質な案件を多く紹介してくれる牟禮さんは有り難い存在でした。

03

大手出版社の経験

イードはメディアの買収を成長戦略の柱に据えていますね。
宮川
2020年9月末時点で66サイトを運営していますが、うち54サイトを事業買収や出資で取得しています。取得総額は17億円以上で、1サイトの平均取得額は3,200万円です。運営サイトは自動車、IT、エンタメ、教育など21ジャンルに広がっています。総務省の家計調査をよく参考にするのですが、通信や自動車、教育は今後も有望なジャンルと見ています。
牟禮
ウェブメディアを買収して、プラットフォームを共通化し、コンテンツ連動型広告で稼ぐ。ビジネスモデルでは明解です。確か、当時は月間100万PVのサイトを買収候補に挙げていらっしゃったと記憶しています。
宮川
それくらいでしたね。ウェブメディアの運営コストはA社は月100万円だけど、B社なら月50万円で済む。C社なら月30万円で回せるかもしれないという世界です。効率の良いメディア運営ができる編集者がいれば、企業再生のように立て直しができます。
牟禮
案件を持ち込みたいアドバイザーは、ユーザーはいるけど儲かっていないウェブサイトを探せばいいわけです。まだSimilarWebも一般的ではない時代ですが、私はサイトを見るだけでだいたいのPVがイメージできました。筋が良さそうなウェブメディアの運営会社に片っ端から電話して、メール送って、「売却にご興味はありませんか」とお声がけしていました。宮川さんがM&Aを重視しているのは、出版社勤務のご経験からですよね?
宮川
その通りです。平成半ばまで大手出版社の収益は雑誌が支えでした。雑誌は販売と広告の両輪で儲かるからです。ただ、次第に広告収益が落ち込み、雑誌を手放すケースが出てきました。いくつかの事例を研究してみると、雑誌には読者がいるのに、経営上の問題で休刊に追い込まれるケースが少なくありませんでした。つまり、発売元を変えて、運営方法を再検討すれば生き残る可能性がある。
宮川
ウェブメディアも同じだと考えました。我々が持っている運営ノウハウやマーケティング施策を横展開すれば、損益分岐点を改善して立て直せるウェブメディアは多い。重要なのは、メディアにしっかりとユーザーが付いているかどうかです。読者は会社ではなく、媒体に付いていますから。

04

メディア業界の変化、コロナによる影響

牟禮
パラダイムシフトの設立は、イードがウェブメディアの買収に力を入れ始めた時期と重なりました。
宮川
スマートフォンの普及が追い風になっていました。ガラケー時代のニュースサイトは「iモード」の内部にあって、課金経済圏に組み込まれていました。それがスマホになり、外側に開放されていきます。広告市場から見れば、デジタルニュースの読者の98%はガラケーでしたが、スマホへ向かって民族大移動が起きました。1人が1日で数十の無料メディアを読むようになり、広告モデルが成立する市場になりました。
牟禮
「ランサーズ」や「クラウドワークス」のようなクラウドソーシングサービスの登場もウェブメディアの新しい潮流を作りました。変化の1つは、買い手側の要望が変わったことで、必ずしも買収するメディアの編集者を必要としなくなりました。かつては熱意ある編集者にフリーのライターが付いていて、編集者の存在はメディア運営の死活問題でした。今なら、ライターも編集者もクラウドソーシングで集められます。
宮川
クラウドソーシングで働くライターの質も上がりましたね。きっかけは、2016年に話題になりましたキュレーションサイト問題です。当時、各キュレーションサイトはクラウドソーシングに潤沢な資金を投入して記事を量産していました。結果、ライターが大量に記事を執筆する機会を得て、一人一人のクオリティが上がっていきました。
牟禮
コロナ禍でメディアの業界事情はさらに変わっていますね。
宮川
変わっていますし、まだまだ変わるでしょう。M&Aで言えば、あっと驚くような案件が表に出てくるようになります。これまでどうにか持ちこたえていたメディアが、コロナ禍で限界を迎えています。学研グループが「地球の歩き方」を買収したのもその一環。こうしたニュースはこれから増えるでしょう。我々にはチャンスです。

05

IT領域に関する情報量

M&Aアドバイザーとしての牟禮さんをどうご覧になっていますか。
宮川
まず、人柄が素晴らしいですね。言葉を選ばずに言えば、アドバイザーには性格の悪い人も多い。しかし、牟禮さんは優秀なビジネスマンでとても信頼できる方です。実は、パラダイムシフトの設立当初、M&Aの成約に関係なく牟禮さんには紹介料をお支払いしていました。牟禮さんの人柄に惹かれたからです。
牟禮
パラダイムシフトの設立は2011年1月で、2カ月後に東日本大震災が起きました。売上高ゼロで大震災ですから非常に厳しい状況でしたが、宮川さんにお支払い頂く紹介料が救いになりました。本当に、感謝の言葉もありません。
宮川
初対面の時からイードのビジネスモデルをよく理解してくださったことも印象に残っています。経営者やキーマンとの面会で重要情報を聞き出す能力が実に高い。
牟禮
パラダイムシフトはIT領域に特化したM&Aアドバイザーで、1万社を超えるIT企業の情報を集約しています。IT領域におけるインサイダー情報の保有量は日本最大規模と自負しています。とはいえ、日本のIT企業は3万社と言われますから、カバー率は30%ほどでまったく足りません。社員にはITに関係する企業はすべて回れと号令しています。
宮川
業界のトレンドを常にキャッチアップされていますね。
牟禮
10人以上の担当者とはクライアントの面談記録を共有しています。事業内容や収益性、事業戦略の課題、創業者のパーソナリティーまですべて報告してもらいます。1日40~50件になりますが、すべての記録に目を通すのが私の日課です。過去のログもすべて保存していて、10年前の宮川さんとの会話内容も読み返すことができますよ。
宮川
クライアント企業の要点をつかむ勘の良さは、ベンチャーキャピタル時代から現在に至るまでIT業界と向き合い続けてきた経験のたまものでしょう。
牟禮
宮川さんが数多くの投資案件を精査しなければ目利き力はつかないと仰ったように、私もできるだけ多くの生々しいインサイダー情報に触れて感覚を磨くように心がけています。日々の面談記録を読みながら、この事業に足りないピースは何か、どのような人材が加われば事業の成長スピードが上がるかなどを考えるのが好きですね。
宮川
IT領域のビジネスは進化しています。10年前に稼げていたビジネスモデルでも、現在はまったく通用しないなんてことはザラです。なぜ牟禮さんのご提案はいつも的確なのか、その理由がよくわかりました。

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