1. ビジネスDDとは
ビジネスDDとは、買収対象企業の事業性および統合によるシナジー効果とリスクを評価するための調査のことです。 ビジネスDDの結果は、買収後の収益予想と統合計画策定に活かされます。
ビジネスDDの結果により、当初予想していた収益見通しに変更があれば、買収価格に反映されることになります。また、ビジネスDDにより明らかにされた期待されるシナジー効果やリスクをもとに、経営統合の青写真が描かれることになります。ビジネスDDは、買い手企業が自ら実施するか、経営コンサルティング会社に委託することが一般的です。
また、買い手が実施するビジネスDD以外にも、債権者や親会社が実施するビジネスDD 、また売り手が実施するセラーズDDが行われる場合もあります。
2. ビジネスDDの目的
ビジネスDDは一般には買い手が実施するものであり、下記のような目的のため実施されます。
・対象会社の経営実態を把握し、事業の将来性を見極めること
・買い手がもたらすシナジー効果を加味した上で実現することができる「対象会社が将来生み出す価値」=「対象会社の価値」を把握すること
・その結果、対象会社に対する投資(買収価格)がいくらまでであれば経済合理性が成り立つかを判断すること
3. ビジネスDDにおける着眼点
ビジネスDDは主に、外部環境分析・内部環境分析・シナジー効果の算定といった点に着目して行われます。
(1) 外部環境分析
外部環境分析では、買収対象企業を取り巻く外部環境のトレンド、機会、脅威を分析します。また、競合他社の戦略や動向についても情報収集して分析することが重要です。
一連の分析を通じて今後の業界環境を踏まえた事業の成功要因(KFS)を抽出し、買収後の経営統合によりそれを実現・強化できるかどうかを検討します。
外部環境分析における主な整理項目として下記のような項目があります。
・市場規模の推移と今後の見通し
・市場のセグメンテーションと各市場セグメントの動向
・競合他社のシェア・戦略、M&A・戦略的提携の動向
・ユーザーの動向、販売価格の推移
・仕入れ先の動向、原材料価格の推移
・代替品、新規参入企業の動向
・愛情の成功要因(KFS)の抽出
・外部環境の機会と脅威
(2) 内部環境分析
内部環境分析では、買収対象企業の経営戦略、ビジネスモデル、研究開発、購買、生産、物流、販売、サービス、経営管理、人事・労務管理、財務管理、資産管理、技術ノウハウ等、各事業機能や経営資源の特徴、強み、問題点、課題等を整理します。また、KPI(主要管理指標)について競合企業と比較することにより、買収対象企業の競争力を定量的に把握することも重要です。
内部環境分析における主な整理項目として下記のような項目があります。
・財務分析(特に競合他社比較)
・重点市場、製品全体における戦略
・バリューチェーンの全体像と各事業機能の課題整理(研究開発、購買、生産、物流、販売、経営管理)
(3) シナジー効果の算定
シナジー効果の算定は、ビジネスDDにおける核心部分です。期待されるシナジー効果の大きさにより最終的な買収価格が決まってくるため、DDの中でも極めて重要な部分となります。
シナジー効果を見極めるには、買収対象事業および買い手企業自身について深い理解が不可欠です。そのため、シナジー効果の算定は、外部機関に丸投げするのではなく、基本的には買い手企業自らが主体的に行うべき作業となります。
シナジー効果の分析は、「期待されるシナジー項目の抽出」、「シナジー効果の定量評価と実現可能性評価」、「企業価値算定(バリュエーション)への反映」といった手順で行われます。
ア. 期待されるシナジー項目の抽出
「期待されるシナジー項目の抽出」では、どのようなシナジー効果が期待されるのかを項目別に抽出します。その際に、漏れ無くダブりなく抽出するために、フレームワーク毎に分類することが効果的です。一般的に用いられるフレームワークは下記のようなものがあります。
・バリューチェーンによる分類
・コストシナジーと売上シナジーによる分類
・事業場のシナジーと財務上のシナジー
・正のシナジーと負のシナジー
イ. シナジー効果の定量評価と実現可能性評価
「シナジー効果の定量評価と実現可能性評価」では、マネジメントインタビューや買収企業の資料、データを用いて上記で抽出した各シナジー項目の仮説検証を行います。定量化に当たっては、シナジー項目毎にバリュードライバーを設定して出来るだけ具体的に算定することがポイントとなります。また、売上シナジーなど不確実性が高いと思われる項目については、実現確率を保守的に見積もる必要があります。
ウ. 企業価値算定(バリュエーションへの反映)
「企業価値算定(バリュエーションへの反映)」では、これまでのステップを踏まえて買収価格にシナジー効果を反映させます。買い手としてはシナジー効果を織り込んだ価値が、買収の上限価格となるため、買収大衆企業のスタンドアローンの価値(セラーズバリュー)から DDでの検出結果を減じたベースバリューを基に、どこまでシナジー効果文を上乗せして買収価格として決着させるかが交渉での争点となります。定量化されたシナジー効果は、買収対象企業のフリーキャッシュフローの見通しに反映され、さらに一定の割引率を用いて現在価値に換算され企業価値に反映されることになります。
4.ビジネスDDの進化
一昔前のビジネスDDでは、ディールブレイク(取引中止)の要因がないかを発見するため、リスクを洗い出すことがビジネスDDの目的でした。
その後、ポストM&A(※)の早い段階においてシナジー効果を実現させるために、どのようなバリューアップ策が可能であるかをDD期間中にいかに抽出するかという点に焦点が当てられる様になりました。シナジーを発見するためのDDでは特に、オペレーション面の論点に加えて、M&A後の戦略的な議論の重要になります。
さらにビジネスDDの内容が進化し、今度はポストM&Aにおいて買収子会社の経営ガバナンス体制をどのように設計すれば良いのかをDDにおいて検討しようとする観点も生まれてきました。
※ポストM&A …M&Aのクロージング 後において、M&Aの目的達成に向け経営計画・経営戦略を実行していくためのプロセスのこと
一つ留意すべき点は、リスクを発見するためのDDとシナジーを発見するためのDDの両方を実施する場合、この二つのDDの実施メンバーは明確に分ける必要があるということです。リスク発見型DDでは、M&A対象会社の経営実態を把握するため、厳しく言及したり、重箱の箱を突つく様な質問を行う場合もあります。そのため、同じメンバーがシナジーを発見するためのDDで両社の将来についてオープンなディスカッションを行おうとしても、M&A対象企業のメンバーは警戒し中々議論が発展しない場合が多くあります。このような事態を避けるため、この両作業部隊は混成チームではなく、別々のチームとしてM&A対象会社とコミュニケーションを取ることが望ましいです。
▼参考記事:「ビジネスDD」