M&A実務

クロージング

1. クロージングとは

クロージングとは、契約の当事者が契約の締結と履行により取引を終了させることを言います。

クロージングの具体的な内容は、M&Aスキームによって異なってきます。ここではM&Aスキームの類型ごとにクロージングについて概説していきます。

2. スキーム別のクロージング

(1) 株式譲渡

株式譲渡の場合、クロージングは、セルサイドからバイサイドに対する対象株式の譲渡と、バイサイドからセルサイドに対する対象株式の対価の支払によって構成されます。

株式譲渡の手続は、対象会社が株券発行会社か否か、上場しているか否か等によって異なります。

対象会社が株券を発行している場合、原則として株式譲渡には株券の交付が必要となるため、クロージングの際も対象株式の株券の交付が必要となります。その上で、当該株式譲渡の対抗要件を具備するため、実務上は、クロージングに際してバイサイドがセルサイドから株主名簿の名義書換に必要な書類の交付を受ける形式を採ることが一般的です。

対象会社が株券を発行していない場合、セルサイドがバイサイドに対し対象株式を譲渡する意思表示のみで株式譲渡の効力が発生するため、株券の交付は必要ありません。したがって、最終契約にはバイサイドからセルサイドに対する対象株式の代金の支払と同時に株式が譲渡される旨を記載しておけば、代金支払いにより株式譲渡の効力が発生します。もっとも、株券を発行していないことから、株式名簿の名義書換がより重要であり、当該株式譲渡の対抗要件を具備するため、名義書換に必要な書類の交付を受けることが必須となります。

対象会社が上場会社の場合、株式等振替制度により、株主の権利の管理が証券保管振替機構(及び証券会社の口座)を通じて電子的に行われているため、社債、株式等の振替に関する法律及び証券保管振替機構の規定に基づく手続が必要となります。具体的には、セルサイドが振替申請を行う必要があり、バイサイドの口座における保有欄に対象株式の数の増加の記載または、記録を受けさせることにより株式譲渡の効力が生じることになります。

(2) 合併

ア. 吸収合併の場合

吸収合併の場合、合併契約に規定された効力発生日に合併の効力が発生し、対価が株式の場合は存続会社から消滅会社の株主に対して存続会社の株式が交付されます。したがって、クロージングにおいては、最終契約に規定した前提条件が充足される限り、効力発生日の到来と同時に合併の効力が発生します。

対価が現金である場合、現金の払込の手順を当事者間で予め定めておくことが一般的です。

なお、当事者の合意で効力発生日を変更する場合は、変更前の効力発生日の前日までに変更後の効力発生日を公告する必要があります。

イ. 新設合併の場合

他方、新設合併の場合は、新設会社の設立登記により合併の効力が発生し、対価が株式の場合は新設会社から消滅会社の株主に対して新設会社の株式が交付されます。したがって、クロージングに際して設立登記の申請が必要となり、登記されない限りは効力が発生しません。

なお、新設合併の場合は、当事者間の合意により最終契約に効力発生日を規定したとしても会社法上の効力日を意味するものではなく単に当事者間の合意を意味するに過ぎず、新設合併の効力はあくまでも新設会社の設立登記によって生じます。したがって、当事者が特定の日を新設合併の効力発生日としたい場合、法務局の業務取扱日をクロージング日とし、同日に設立登記の申請を行わなければならない点に注意する必要があります。

(3) 会社分割

ア. 吸収分割の場合

吸収分割の場合は、吸収分割契約の定めに従い、効力発生日に分割の効力が発生し、対価が株式の場合は承継会社から分割会社に対して承継会社の株式が交付されます。したがって、最終契約に規定した前提条件が充足される限り、効力発生日の到来と同時に分割の効力が発生します。

なお、効力発生日を変更する場合、やはり変更前の効力発生日の前日までに変更後の効力発生日を公告する必要があります。

イ. 新設分割の場合

他方、新設分割の場合には、新設分割計画の定めに従い、新設会社の設立登記をすることで分割の効力が発生し、対価が株式の場合は新設会社から分割会社に対して新設会社の株式が交付されます。したがって、クロージングに際して設立登記の申請が必要となり、登記されない限りは効力が発生せず、最終契約に効力発生日を規定したとしても会社法上効力発生日の意味を有するものではありません。

(4) 株式交換・株式移転

ア. 株式交換の場合

株式交換の場合は、最終契約に規定した前提条件が充足される限り、株式交換契約に規定された効力発生日の到来と同時に株式交換の効力が発生します。対価が現金である場合には現金の払込みの手順を当事者間で予め定めておく事が一般的です。

なお、当事者の合意で効力発生日を変更する場合、変更前の効力発生日の前日までに変更後の効力発生日を公告する必要があります。

イ. 株式移転

株式移転の場合は、新設会社の設立登記により株式移転の効力が発生し、対価が株式の場合は新設会社から完全子会社となる会社の株主に対して新設会社(完全親会社)の株式が交付されます。したがって、クロージングに際して設立登記の申請が必要となり、登記されない限りは効力が発生せず、当事者間の合意により最終契約に効力発生日を規定したとしても会社法上の効力発生日を意味するものとはなりません。

(5) 事業譲渡

事業譲渡の場合は、株式譲渡や合併等とは事情が少し異なります。

事業譲渡の最終契約の構成は株式譲渡の場合と似ることが多いものの、事業譲渡の最終契約で効力発生日(事業譲渡日)を定めた場合であっても、例えば、譲渡対象となる個々の契約の移管には当該契約の相手方の同意が必要となるため、効力発生日に全ての手続が完了するとは限りません。

他方で、譲受人からは、効力発生日に譲受人に対し対価が支払われることになります。したがって、当事者が合意した事業譲渡の対象の全てが効力発生日に譲受人に移転していない場合は、当該事業譲渡の対象の移転の困難さを考慮し、引き続き移転業務を譲受人に課す場合と、その分の価格調整を実施する場合などが考えられます。

なお、事業譲渡の場合、クロージングに際して法律上要請される特別な行為があるわけではなく、契約内容に応じて、譲渡対象である資産の譲渡や契約の移管等に必要な手続(対抗要件の具備や相手方の同意等)が実施されることになります。

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