Ⅰ 株式譲渡とは

 株主が保有する対象会社の株式を対価と引き換えに他社へ譲渡することにより承継させるM&A手法であり、中小企業のM&Aにおいて最も多く採用されています。売り手と買い手との間で株式譲渡契約が締結され、契約に従って買い手が譲渡代金を支払うと同時に売り手が株式を交付します。


 対象会社が非上場企業である場合には、株式譲渡は買い手と対象会社の株主との相対取引により実行されます。このため対象会社の株主が広く分散している場合、買い手は多くの対象会社株主との間で相対の譲渡取引を実行する必要があり、目標とする株式数(議決権比率)を取得するのが困難となる場合があります。



Ⅱ 株式譲渡と株式交換との違い

 株式交換では、対象会社の株式を強制的に買い手企業に取得させることができるので、株式譲渡のような困難を避けることができます。


 一方で、株式交換には100%子会社化以外の持分割合の選択肢が存在しないという点が異なります。



Ⅲ株式譲渡の方法

株式譲渡には、大株主などから直接株式を買い取る相対取引や、上場企業の株式を証券取引所等で買い入れる市場買付け、あるいは不特定多数の株主から公告により株式買付けの申し込みを勧誘して市場外で株式を買い集める公開買付け(TOB)という3つの方法があります。



ⅰ相対取引

 非上場株式の場合は、相対取引しかありません。そのため、株主が分散している場合は、いかにして株式を買い集めるかが問題となります。あくまで相対取引であるため、買い取り価格は株主によって異なることもありますが、個別に交渉していては時間がかかる上、株主間で不満が生じるおそれもあることから、実務上は同一価格で買い集めることが一般的です。



ⅱ市場買付け

 上場株式であれば、株式市場から株式を買い集めることが可能です。ただし、発行済株式総数および潜在株式総数の合計の5%を超えて取得した場合、その取得の日より5営業日以内に大量保有報告書を管轄の財務局へ提出する必要があります(いわゆる「5%ルール」)。また、その後1%を超える保有割合の変動があった場合には変更報告書の提出が必要となります。このように、市場からの買付けは買付け動向が明らかになってしまうほか、買い集めにより株価が上昇し買収金額が高騰するおそれがあることから、過半数を目指すような場合には選択されることはほとんどありません。



ⅲ公開買付け(TOB)

 公開買付け(TOB)とは、上場会社等(有価証券報告書提出会社)の発行する株式を大量に買い付けることを目的として、不特定多数の株主から公告により買付けの申し込みを勧誘して市場外で株式を買い集める方法です。


 金融商品取引法では、対象会社が上場企業など、金融商品取引法上の有価証券報告書の提出会社であって、買い手が一定割合以上の株式を取得する場合、株式取得について公開買付けによることが強制されています。



Ⅳ M&A手法としての株式譲渡のメリットデメリット

ⅰ 株式譲渡のメリット

(ⅰ) 株式譲渡は手続が簡便

 他のM&Aの手法に比べて手続が簡便です。通常は、株式の売買契約書の作成、株式対価の払込等により手続が完了します。


(ⅱ) 株式譲渡は法律上及び事実上の制約が少ない

 株式譲渡の結果、株主が交替するだけですから、売り手の資産、負債が増減せず、契約関係や行政上の許認可の影響も受けません。したがって、改めて個別の契約を締結し直したり許認可をとったりする必要はありません。



ⅱ 株式譲渡のデメリット

(ⅰ) 株式譲渡は買収対象を選別できない

 買収対象を対象会社の事業のうちの1つに選別することができないので、取引時点で把握していなかった偶発債務の承継を免れることができないというデメリットがあります。


(ⅱ) 株式譲渡は上場会社の場合に規制がある

 上場会社の場合は、TOB(Take Over Bit、公開買付)規制、5%ルール規制、インサイダー取引規制などの規制を受けます。


a. TOB規制

 「TOB規制」とは、会社支配権に影響を与える株式の大量買付が市場外で行われる場合に、一般株主にも譲渡の機会を与えるために公開買付開始公告などにより情報開示をする必要があり、一般株主からの応募に対しては買い受け義務が発生するという規制です。


 M&Aの際には、よりスピーディーに進めるために市場外で取引が行われることが多いのですが、市場外では一般株主から把握しにくい取引となるため一般株主を保護する観点からそのような記載が設けられています。


b. 5%ルール

 「5%ルール」とは、上場会社の株式を5%超保有する株主(大量保有者)に対し、大量保有報告書を提出させ、また提出後保有割合が1%以上増減するごとに変動報告書を提出させるというルールです。


c. インサイダー取引規制

「インサイダー取引規制」とは、役員など会社関係者がその上場会社等の有価証券を売買しようとする場合に立場上知り得た業務上の重要事実等を公表前や5%ルールによる情報開示前に売買してはならないという規制です。