1. IoTとは
IoT(アイ・オー・ティ)とは、Internet of Thingsの略称で、「モノのインターネット」と訳されています。
(1) 「モノ」とは
「モノのインターネット」にいう「モノ」とは、従来インターネットに接続することを想定されていなかった物全般を指しています。これまでは、インターネットに接続する物といえばパソコンや携帯電話など、インターネット接続することを想定して造られた電機機器でした。
しかしIoTでいう「モノ」とは、このような電機機器以外の物を想定しています。
たとえば、野菜・トイレ・電池・歯ブラシ・酒・人体・座席、これらは全てIoTでいう「モノ」です。インターネット接続を想定して造られた電機機器「以外」という定義づけなのですから、IoTでいう「モノ」の範囲には制限がないことになります。そして「モノ」の範囲に限りがないということは、市場の数にも限りがないということになります。
IoTがビジネスとして高い注目を集めているのは、「モノ」の数だけ市場があるからです。
(2) IoTで何が起きるか
では、限りのない「モノ」をインターネットで繋ぐと何が起きるのでしょうか。
IoTを一般論として表すならば、“インターネット社会に、家や職場、街中のあらゆるモノを取り込み、お互いの情報や機能をシームレスにやり取りし活用することによって人間社会がより豊かになる” と表現できるのですが、その具体的な応用例は「モノ」の数だけ可能性があるため、非常に多様です。
そこで、ここではいくつか「モノ」×インターネット(IT)の具体例を列挙します。
- 野菜(農地)×IT → インターネット上で肥料や水やり等の管理が可能に
- トイレのドア×IT → インターネット上でトイレの空室状況を知ることが可能に
- 電池×IT → インターネット上でリモコンの使用状況が把握可能に
- 歯ブラシ×IT → インターネット上で磨き残しをチェックすることが可能に
- 酒蔵×IT → インターネット上で湿度・温度・風味などの管理を行うことが可能に
- 人体×IT → インターネット上で排泄状況の管理を行い効率的な介護等が可能に
飲食店の座席×IT → インターネット上で空席情報をリアルタイムに掲出可能に
これらの事例は、2019年現在、実際にビジネス活用されている例になります。
(3) IoTの目的とは
IoT、すなわち「モノのインターネット」とは、上記の例のように従来インターネットに繋がっていなかった物をインターネットで繋ぐ、ということになります。
なぜそのようなことをするのか、なぜIoTを推し進めようとする企業が急増しているのか、総務省の平成28年版情報通信白書によれば、企業がIoTを進める主な目的は「コストを削減すること」「売上を増加させること」にあるとされています。モノをインターネットで繋ぐことが、どのようにしてコスト削減や売上増加に結びつくのでしょうか。
事例を挙げながらIoTの基礎知識を紹介しつつ、コスト削減・売上増加の実相に触れます。
2. IoTに必要なこと 〜IoTの基礎知識〜
「野菜(農地)をインターネットに繋いで肥料や水やり等の管理を行う」というケースを例にとり、IoTに物理的に必要とされるものを挙げます。
(1) デバイス(モノ)
ここでいうモノは、前述のとおり、あらゆる物が対象となりえます。実際上は、センサーの取り付けが物理的に可能な物体であれば、なんでも「モノ」にあたります。
例に挙げたケースでいえば、農地の土壌がデバイス(モノ)になります。
(2) センサー
モノに組み込む機器類のことで、モノやその周辺環境を感知しデータとして読み取る装置のことです。モジュールと呼称されることもあります。モノの有無や形状、位置を感知することはもとより、重さや圧力、速度、音声、振動、温度、湿度、におい、電磁気、光など、実に様々な種類の状態を感知するセンサーが存在します。
農地の例でいえば、日射センサーで日射量を感知しデータとして取得、土壌センサーで土壌水分量や肥料濃度をデータとして取得します。
(3) ネットワーク
センサーが取得したデータを、パソコンやスマホといった端末に送るための通信手段です。一般的には無線ネットワークが利用されます。データの容量、データを送る速さ、データを送る距離、バッテリーの消費量など、実行したい内容や用途に合わせて最適なネットワークが選ばれます。
例えば、至近距離であればBluetooth、大容量同時接続であれば5G、バッテリー寿命と広範囲カバーを重視するならLPWA(LowPower,WideArea)など用途に合わせたネットワークが選択されることになります。
農地の例では、センサーが取得した各種データを、既存の4G回線やWi-Fiによってスマホなどの端末に送信します。
(4) アプリケーションソフト
アプリケーションソフトは、ネットワークを通じて送られてきたデータを可視化し、人に分かりやすい形で表現するためのものです。本来、センサーが取得したデータは暗号のごとく文字・数字の配列であったり、また、そのデータ量は膨大であったりします。そういったデータを整理・解析・最適化して、人が見て分かるグラフや図などの形で表現するのが、アプリケーションソフトの役割です。
こうしたアプリケーションソフトは通常、スマホやタブレット、パソコンといった端末に対応しており、ユーザーはこれら端末上でデバイス(モノ)の状態や情報を看取することになります。
3. IoTのメリット(コスト削減と売上増加)
では、このようなIoTがなぜ、コスト削減や売上増加につながるのか、IoTのメリットという掲題のもと、先に挙げた「野菜(農地)をインターネットに繋いで肥料や水やり等の管理を行う」という事例に沿って説明していきます。
(1) コスト削減
農地にIoTを導入しない場合、肥料や水やりを適切に行うためには、人間が毎日定時に農地の状態を監視しなければなりません。農地の状態の監視とは、当然ながらただ漫然と農地を眺めればよいというわけではありません。
農地の状態を正確に看取り、適切な肥料や水の量を監視者が逐次導出しなければならず、そのためには長年の経験や勘を要します。このような経験や勘に優れた人材を確保するためには、相応の人件費がかかります。また、仮にそのような人材を確保できたとしても、その技術の継承、すなわち後継者の確保という問題が後年発生します。
農地にIoTを導入した場合、農地の状態チェックはセンサーが常時かつ恒久的に行うのですから、人材確保のためのコストや技術承継は問題となりません。 また、IoTを導入した場合、機械的にデータ取得を行うため、ヒューマンエラーは生じません。つまり、肥料や水の分量を見誤った等のヒューマンエラーによる損失を回避できることになります。
かくして浮いた人材コストや、回避することができた損失は、他のリソースに再配分できるようにもなるのです。
(2) 売上増加
農作物にとっては、少量多潅水(少量の水を1日に多数回まくこと)が良いといわれています。作物の種類にもよりますが、1日に9回〜12回、水やりをするのが良い作物を育てるポイントとのことです。
しかしながら、人間が毎日この回数、農場に水をまくことは大変な労力です。もとより、農作物に必要なものは水だけではありません。肥料、温度、湿度など、気を配るべき要素は数多です。高品質の作物を収穫するために必要だとしても、これら諸要素を人間が常に最適管理することは非常に困難といえます。
この点、IoT活用による農地管理が行われればマンパワーに依ることなく農地の最適な管理ができ、高品質の作物を安定的に収穫できることとなり、結果、売上の増加へ繋がります。
また、「飲食店の座席をインターネットに繋いで空席情報をリアルタイムで掲出する」という事例でいえば、空席情報を随時掲出することによって、特定エリアで今すぐ飲食店に入りたいという喫緊のニーズを汲み取ることができ、空席があるにもかかわらず「空席がないかもしれないから他所へ行こう」という機会損失を防ぐことにもなります。
このような、農地状態チェックや空席情報更新といった「監視」業務は、直接的な生産性向上に結びつくとはいえません。こういった監視業務にIoTを導入することによって、監視業務にあてていたマンパワーを、より生産効率の高い業務へと回せるようになるのです。
4. IoTのデメリットとコスト
上述のような例を待つまでもなく、IoTの有用性は広く認知されているところです。
しかしながらIoTは未だ本格的な普及には至っていない、導入しても途中で止まってしまう、といわれています。
メリットは十分に認知されていながらも、なぜIoTの導入・普及が進まないのか、その阻害要因について説明します。
(1) 投資対効果
IoTを導入すれば、今まで得られなかったデータが詳細かつ膨大に得られるようになります。
しかし、そういったデータをどのように分析・活用すれば自社の業績に直結するのかは、「実際にやってみなければ分からない」部分が多々あります。IoTの導入にはまとまった初期費用を要しますが(たとえば、先の農地の例でいえば初期費用は300万円以上)、かような費用を投資したものの、実際にやってみたらコスト削減や売上増加に繋がらなかったというケースが発生しうるのです。
このようなケースに陥った場合、すなわちIoTへの投資に失敗したとなれば、IoTプロジェクトの担当者は責任を問われることとなるでしょう。結果、IoTの導入に二の足を踏むといった状況が生まれてしまうことになるのです。
なお、「実際にやってみなければ分からない」原因の多くは、課題を正確に掴めていない点にあるとされています。
たとえば、農地の温度管理に真の課題があるのに、潅水量のデータをいくら取得しても課題は解決しません。ゆえに、IoT導入を検討する際には、自社の課題を精確に把握しておく必要があるということになります。
(2) 人材不足
IoTの導入・運用にあたっては、IoTのノウハウを持った人材、トラブルが起きたときに対応できる人材、取得されたデータを解析し有益な情報を抽出できる人材(データサイエンティスト)の存在が必須です。しかし衆知の通り、日本におけるIT人材は不足の状況にあり、そのことがIoTの未普及の一因ともなっています。
データ解析等の仕事をAIに置き換える試みも推進されてはいますが、AIが人間に代替できる分野にはまだ限りがあり、IT人材不足の状況は当面解消されないため、ゆえにIoTの活用もなかなか前進しないと考えられます。
(3) セキュリティ、プライバシー等
その他、IoTのリスク・デメリットとしては、セキュリティやプライバシーの問題が挙げられます。
インターネットで繋ぐということは、インターネットを通じた外部からの攻撃を受け得るというリスクを抱えることにもなります。たとえば、医療器機をインターネットに繋いでいた場合、外部からの悪意ある攻撃を受けることは、人身を危険に晒すことと同義です。
また、たとえば自動車や家具をインターネットに繋いでいた場合、それらの使用状況はユーザーの暮らしに関わる情報であるため、ユーザーのプライバシーに結びついてしまいます。そういった情報をいかに保護するのかという問題も、IoT推進の課題です。
これら以外にも、電波の管理(混線等の防止)、IoT機器の保全(アップデート等を随時行う)、IoT機器への安定した電力供給の確保など、IoT導入に際してのリスクやコストは決して少なくありません。
5. まとめ
IoT、すなわち、モノのインターネットの本格的な導入が進めば、「便利な生活」が実現されることは想像に難くなく、未だインターネットに繋がっていないモノが限りなく存在する以上、IoTのビジネスとしての可能性は非常に大きいといえます。
一方で、IoT推進のためにクリアされるべき課題もまた、少なくはありません。
現在、すでに成果を上げている具体的なIoT事例をまとめた記事を掲載しておりますので、そちらも併せご覧ください。