1. 人事DDとは
人事DDとは、人事・労務の観点からM&Aに伴うシナジー効果とそのリスクの可能性を評価するための調査のことです。
一般に買収による最大のリスクは、従業員のモチベーション低下により当初期待されていた業績を達成できないことであろうと言われております。また、シナジー効果の面でも、人件費削減やスキル移転による能力向上など、人事・労務に関する部分は重要となります。人事DDは、人事コンサルティング会社や社会保険労務士に委託することが一般的です。
2. 人事DDにおける着眼点
人事DDでは、人員構成と人件費、組織構造と職務権限、人材、労働条件、労働条約、労使関係、労災状況いった点に着目します。
(1) 人員構成と人件費
部門ごとの従業員の人数、年齢、性別、勤続年数、職務内容を把握します。
人件費の総額は給与水準そのものだけでなく人員構成の影響も受けています。給与水準は買い手企業や同業他社と比較します。その際、退職金制度や福利厚生制度などの給与以外の人件費部分も考慮することが重要です。
特に、退職金・年金制度は人件費でも大きなウエイトを占める部分である上、簿外債務となっている可能性もあるため、実態をよく把握することが重要です。また、役員退職慰労金制度や役員の生命保険加入状況も確認します。
(2) 組織構造と職務権限
買収対象企業の組織構造とそれぞれの組織の職務権限および職務分掌を把握します。
組織図が実態とあっていないケースもあるため、ヒアリングを通じて実態を把握することが重要です。
(3) 人材
役員、従業員問わず、事業運営上のキーパーソンの経歴や能力を把握します。そのためには、キーパーソン本人のみならず周囲の人のインタビュー結果も踏まえて総合的に判断します。
キーパーソンについてはモチベーションの源泉も把握した上で、流出しないための手立てを講じることが重要です。
(4) 労働条件
就業規則・付属規程類などから、就業条件の違いを明確化し、買収後の統合可能性を検討します。特に合併の場合は、人事制度の統合は避けて通れない課題となるため、この違いの把握は重要です。
(5) 労使関係
労働組合の有無、組合が存在する場合の加入率や労使交渉の経緯など、労働組合の性質と経営への影響を把握します。また、労働協約や労使間協定の有無なども確認します。
(6) 労災状況
労災事故の発生状況や補償状況を確認します。発生率が高い場合はその原因も把握します。未だ補償していない会社負担部分は簿外債務に該当するため、要注意です。