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バーチャル株主総会を合法的に開くには、有益性は、欠点はないのか

「バーチャル株主総会」が注目を集めています。 注目されている直接的な要因は、新型コロナウイルスの感染拡大(以下、コロナ禍)により、多くの人が集まる従来型の「リアル株主総会」の危険性が指摘されたためですが、実際にオンラインでのバーチャル株主総会を開催してみると、さまざまなメリットがみつかりました。 経済産業省はコロナ禍前から、バーチャル株主総会の検討を進めていたほどです。

この記事では、バーチャル株主総会の法的位置づけや、合法的に開催する方法、有益性、さらに欠点や課題について紹介していきます。

1 バーチャル株主総会とは【基礎知識と法的位置づけ】

バーチャル株主総会とは、リアルで開催されている株主総会をインターネットで(オンラインで)生配信し、株主がパソコンなどの端末でその様子を視聴しながら出席したり参加したりする仕組みです。リアル株主総会を開かないケースも、バーチャル株主総会と呼ばれることがあります。

株主総会では、株主による議決権の行使が重要になりますが、ITやネット上のシステムを駆使することによって、バーチャル株主総会でもそれが可能になります。

バーチャル株主総会に対する、企業の懸念は、会社法などをクリアできるのか、つまり「合法なのかどうか」だと思いますが、ハイブリッド型という仕方で開催すれば合法になります。

(1) ハイブリッド型なら合法になる

バーチャル株主総会が登場したことによって、株主総会の形態は次の4種類になりました。

合法:1 リアル株主総会
合法:2 ハイブリッド型バーチャル株主総会(出席型)
合法:3 ハイブリッド型バーチャル株主総会(参加型)
グレー:4 バーチャル・オンリー型株主総会

リアル株主総会とは、いわゆる「普通の」株主総会のことで、会場に株主を集めて開催します。
ハイブリッド型は、リアル株主総会を開きながら、バーチャル株主総会も開催する形態です。出席型と参加型の違いはあとで解説します。

経済産業省は、この3つの形態については法的に問題ないとの立場で、「ハイブリッド型バーチャル株主総会の実施ガイド」(以下、実施ガイド)という資料を2020年2月に作成しているほどです(*1)。

4つめのバーチャル・オンリー型株主総会は、リアル株主総会を開かず、バーチャル株主総会だけを開く形態です。経済産業省は、「バーチャル・オンリー型株主総会は違法だ」とは断言していませんが、先ほど紹介した実施ガイドに「現行の会社法下においては解釈上難しい面があるとの見解が示されている」と記述していて、違法性を「臭わせて」います。
そのため企業は、まだしばらくはバーチャル・オンリー型株主総会は開催しないほうがよいでしょう。
本稿でも、「ハイブリッド型バーチャル株主総会」のことを単に「バーチャル株主総会」と表記していきます。

*1:https://www.meti.go.jp/press/2019/02/20200226001/20200226001-2.pdf

(2) 出席型と参加型の違い

日常生活では「会議に出席する」も「会議に参加する」も同じ意味で使われますが、バーチャル株主総会では、出席と参加は明確にわけられています(*1)。

出席型のバーチャル株主総会の特徴は次のとおりです。

A:株主がオンラインでリアルタイムで(つまり、生放送で)株主総会を視聴できる
B:リアル株主総会の出席者と同じように議決権を行使できる
C:リアル株主総会の出席者と同じように質問をすることができる

参加型のバーチャル株主総会の特徴は次のとおりです。

a:株主がオンラインでリアルタイムで(つまり、生放送で)株主総会を視聴できる
b:議決権は行使できない
c:質問をすることができない

出席型と参加型は、リアルタイムで視聴できる点は同じですが、議決権の行使と質問の可否に違いがあります。
株主総会において、議決権と質問はとても重要な意味を持っています。

(3) 議決権とは、質問とは

会社法では、1株(または1単元)につき1個の議決権があると定められています(第300条)。
株主総会では、会社や株主から提出された議案について議論しますが、最終的には決議を行います。決議に加わることを「議決権の行使」といいます。
また、議決権を持っていると、株主総会で質問をすることができます。例えば、売上が大幅に減少していた場合、議決権を持つ株主は、社長に経営責任はないのかと質問することができます。株主からの質問は議事録に残されますので、大きな意味があります。

(4) 国は出席型も参加型も容認している

出席型バーチャル株主総会の出席者は、リアル株主総会の出席者と同じことができるので、こちらが合法であることは間違いありません。
では、議決権の行使も質問もできない参加型バーチャル株主総会はどうなのかというと、経済産業省はこちらも容認しています。
その理由として、経済産業省は次のように述べています(*1)。

日本の大多数の会社では、株主総会を開催する前に、議案の賛否についての結論が事実上判明している中で、当日の株主総会に参加する株主は、質問や動議を行うよりも、経営者の声や、将来の事業戦略を直に聞くことに意味を見出している場合が多いのが実態である。したがって、ハイブリッド参加型バーチャル株主総会は、株主に対して経営者自らが情報発信するなど、株主が会社の経営を理解する有効な機会として、積極的に評価されると考えられる。
引用:https://www.meti.go.jp/press/2019/02/20200226001/20200226001-2.pdf

要するに、参加型であっても株主の利益はしっかり守られるので問題ない、という見解のようです。

さらに、参加型バーチャル株主総会を開催する場合でも、株主総会前にハガキなどを使って議案について賛否を投票してもらえば「事実上の議決権の行使」になります。
また、インターネット技術を駆使すれば、チャット機能で「事実上の質問」をすることができます。
このような工夫をすることで、バーチャル株主総会の内容は、限りなくリアル株主総会に近づけていくことができます。

2 バーチャル株主総会を実施するために必要なツール

バーチャル株主総会を開催するためには、IT機器やインターネット・システムなどが必要になります。
株主総会であっても、バーチャルをリアルに近づける鍵は「ツール」になります。 バーチャル株主総会を開くには、最低でも次のツールは必要になります。

  • リアル株主総会の様子を撮影する機材
  • 撮影した動画をリアルタイムで配信するネット環境
  • 株主だけがネット上でリアル株主総会のライブ映像を閲覧できるシステムやアプリ
  • 出席型の場合、バーチャル議決権行使を行うシステムやアプリ
  • 株主が質問をするシステムやアプリ
  • 株主が行った議決権行使や質問を、会社側が改ざんできないようにする仕組み
  • 株主投票を行う場合、集計システム
  • バーチャル株主総会が、システムやネットの支障で閲覧できなくなったときの対応
  • 議決権行使や質問が、システムやネットの支障で閲覧できなくなったときの対応

3 株主総会をバーチャルにするメリット

経済産業省は、バーチャル株主総会には次のようなメリットがあるとしています(*1)。

  • 遠方にいる株主が移動せず出席・参加できる
  • 株主の傍聴機会が拡大する
  • 1人の株主が、同日・同時刻に開かれる複数の株主総会に出席・参加できる
  • 企業は、株主重視の姿勢をアピールできる
  • 株主総会の透明性が増す
  • 情報開示が進む
  • 株主総会の議論が深まる

株主にも会社側にもメリットがあることがわかります。

経済産業省はバーチャル株主総会について、コロナ禍前の2018年から検討を進めていました(*2)。
同省は、企業と株主の建設的な対話が、企業の成長に欠かせないと考えています。株主総会をバーチャル化すれば、出席・参加できる株主が格段に増えるので、対話の機会は増えます。

バーチャル化しても支障が出ないどころか、より高い効果が期待できるのであれば、「どんどんバーチャル化していったほうがよい」という考え方は、株主総会の在り方論議のなかでも「是」であるといえそうです。
それがコロナ禍対策になれば「正しい」とすらいえるでしょう。

*2:https://www.meti.go.jp/press/2019/02/20200226001/20200226001.html

4 デメリットと課題

バーチャル株主総会のデメリットは、今のところ「ハイブリッド型バーチャル株主総会」しか合法的ではない、ということでしょう。
バーチャル・オンリー型株主総会は、リアル株主総会を開催しない部分が、会社法に抵触する可能性があるからです。

日本で、バーチャル・オンリー型株主総会の違法性が疑われるのは、会社法第298条に「株主総会の場所を定めなければならない」と書かれてあるからです(*3)。
ネット空間を「場所」とみなすことは無理があるので、「場所といっている以上、リアルな場所が必要」と解釈され、リアル株主総会の開催が欠かせないわけです。

ハイブリッド型バーチャル株主総会は、リアルとバーチャルの両方を開催しなければなりません。開催回数は1回で済みますが、株主総会の準備をする社員たちは2つの会場をセッティングしなければなりません。

もし、出席型のバーチャル株主総会が、リアル株主総会と遜色ないレベルになるのであれば、バーチャル・オンリー型株主総会のほうが「よりよい」形態といえなくもありません。 テレワークシステムの株式会社ブイキューブ(本社・東京都港区)によると、アメリカではすでにバーチャル・オンリー型株主総会が解禁され、採用する企業が増えています(*4)。

経済産業省も「バーチャル・オンリー型株主総会は違法」と断定しているわけではないので、今後の議論のなかで検討が進むかもしれません。

*3:https://elaws.e-gov.go.jp/search/elawsSearch/elaws_search/lsg0500/detail?lawId=417AC0000000086#2089
*4:https://www.nice2meet.us/what-is-virtual-general-meetings-of-shareholders-and-why-is-it-gathering-attention

5.まとめ~当然の姿でありリスクヘッジにもなる

株主の利益を考え、開催の効率化を考慮して、社会的な要請に応えようとすると、バーチャル株主総会は当然あるべき姿といえそうです。
買い物でもゲームでもコミュニケーションでも、バーチャルで済ますことができるのであればそのほうがよい、と考える風潮になっているので、むしろリアル株主総会しか開いていない企業は、株主から「なぜバーチャル株主総会を開いてくれないのか」と要望されるかもしれません。
そしてコロナ禍によって、人の集まりがネガティブにとらえられるようになりました。人をそれほど集めなくてもよいハイブリッド型バーチャル株主総会は、リスクヘッジにもなります。
バーチャル株主総会は今、企業の重要検討課題の1つといえるかもしれません(*5)。

*5:https://www.nikkei.com/article/DGXMZO60904290Y0A620C2PE8000/

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