M&A

M&A件数は景気によってどのように増減するのか

M&Aでは、買い手企業も売り手企業も、M&A件数の推移に注目したほうがよいでしょう。買い手企業は買い手市場になったときに買ったほうがよいですし、売り手企業は売り手市場になったときに売ったほうがよいからです。
M&A件数は、M&A市場の行方を占ううえで重要な指標になります。

M&Aは経済活動なので、M&A件数は景気の影響を受けます。
景気が上向けば、大企業や成長している企業の「買収マインド」が旺盛になるので、M&A件数は増えそうです。しかし景気が悪化しても、業績が悪化した企業が自社や自社の事業を売却したいと考えるので、やはりM&A件数は増えそうです。

つまり、M&A件数の動きは、景気の影響を受けながらも、その他の要因でも変わってきます。
買い手企業も売り手企業も、自社にとって有利な取引にするには、M&A件数と景気の相関関係や、M&A件数を左右するその他の要因について把握しておく必要があります。

1.中小企業庁の資料から

M&A件数の動向をつかむには、2つの方法があります。それは、大きな流れを大づかみする方法と、短期間の流れを詳細に分析する方法です。
まずは、中小企業庁のデータから「大づかみ」していきます。

(1)大企業、中小企業を含む全体のM&A件数の動向

中小企業庁は公式サイトで、株式会社レコフデータの「全企業のM&A件数」の推移を公表しています(*1)。

このグラフは大企業と中小企業を含む、国内のすべてのM&A件数の推移です。 このグラフから、次のような特徴があることがわかります。

・1985年から2017年にかけて、全体的に増加トレンドにある ・2017年は過去最多の3,050件に達している ・ピークは1990年、2006年、2017年の3回ある ・ボトムは1993年、2011年の2回ある

(2)中小企業のM&A件数の動向

中小企業庁はさらに、中小企業のM&A件数のデータも集めています。
下記のデータは、東証一部上場企業の3社(日本M&Aセンター、ストライク、M&Aキャピタルパートナーズ)の中小企業のM&A件数データを、中小企業庁が集計したものです(*1)。

このデータから、2012年から右肩上がりで中小企業のM&A件数が増加していることがわかります。
そして、このデータを加工すると、さらに以下のことがわかります。

<中小企業のM&A件数、前年比 単位:件>

12年 13年 14年 15年 16年 17年
合計 157 171 234 308 387 526
前年比 - 8.9% 36.8% 31.6% 25.6% 35.9%

この表は、中小企業のM&A件数の「合計」だけを抽出して、前年比の増加率を表したものです。 2013年は2012年比で8.9%しか増えていませんが、2014年以降は25.6~36.8%増で、堅調に伸びています。 2014年に急増したことで、増加率が2015、2016年に2年連続で減少していますが、2017年の増加率35.9%は、2014年の36.8%と遜色ありません。

以上のデータからM&A件数の大きな流れを押さえることができたと思います。それでは次章から、景気動向とM&A件数をリンクさせて考察していきます。

*1:https://www.chusho.meti.go.jp/pamflet/hakusyo/H30/h30/html/b2_6_2_2.html

2.経済的な大事件や大事故を追う

M&A件数と景気の相関関係を押さえるには、経済的な大事件や大事故が起きたときの様子を観察したほうがよいでしょう。 最近では、次のような事象が観察対象になります。

  • 2008年のリーマンショック
  • 2011年の東日本大震災
  • 2013年からのアベノミクス

これらの事象は、景気の落ち込みや景気の浮揚をもたらしました。このときM&A件数はどのように変化したのでしょうか。また、なぜM&A件数は、その事象によって変化したのでしょうか。

3.リーマンショックのときはどうだったか(2008年ごろを見る)

アメリカの大手投資銀行グループ、リーマン・ブラザーズ・ホールディングスの経営破綻は、2008年9月15日です。このリーマンショックを契機に全世界が「不況のどん底」を味わうことになります。

リーマンショック前夜の2008年8月まで、日経平均株価は12,000~14,000円の水準で推移していました(*2)。ところが2008年10月に1万円割れの8,500円台をつけ、2009年2月に7,500円台にまで落ち込みました。
そして日経平均が12,000円台に届いたのは2013年3月です。日本経済の回復は、実に4年半(2008年9月→2013年3月)の月日を要しました。

(1)M&A件数は2011年で底を打った

それではリーマンショック前後のM&A件数はどのように変化したでしょうか。先ほど紹介した中小企業庁の全企業のM&A件数の推移のグラフから、2007~2013年のデータだけを抜き出してみます。

M&A件数は、リーマンショック前から減少傾向にあったことがわかります。そしてリーマンショック後も減少し続けました。
底を打ったのは2011年の1,687件です。この数字は、リーマンショックの影響を受けていない2007年の2,696件の37%(=(1,687÷2,696-1)×100)減です。

みずほ総合研究所は「リーマンショック後に日本企業は急激な業績悪化に直面し、2009年上期にはM&A市場は縮小を余儀なくされた」と分析しています(*3)。

リーマンショックで業績が悪化すると、自社や自社事業を売りたいと考える企業が増えます。しかしリーマンショックの衝撃はあまりに大きすぎて、買い手企業になり得る企業の「買収する余裕」や「買収する意欲」を奪ったわけです。

ただ、みずほ総研は「(M&A市場は)企業業績の回復とともに2009年下期以降、緩やかに復調した」とも述べています。
2009年上期にM&A市場が縮小したが同年下期には復調した、というわけです。みずほ総研は、回復は早かったと分析しています。

(2)M&A件数に関するデータを見るときの注意点

ここで、M&A件数に関するデータを見るときの注意点を紹介します。 中小企業庁のデータでは、M&A市場が回復するのは2012年以降でした。しかし、みずほ総研は2009年下期には、M&A市場は、緩やかながら復調したとみています。
両者には3年近いタイムラグがありますが、これはどちらかが間違っているというわけではありません。

M&A件数の正確なデータは、実は存在しません。それは、M&Aは行政機関に届け出ることなく実施できるからです。
そのため、M&Aを分析する人たちは、独自に調査をしたり、独自調査を使用したりします。異なる調査のデータを使うため、分析者によって分析の差やタイムラグが生じるわけです。

ただ、中小企業庁もみずほ総研も、M&A市場は「リーマンショック後にしばらく冷え込み、その後回復した」という見解は一致しています。

売り手企業は、底値で買収したいはずです。
買い手企業は、少しでも買収価格が上向いたときに売りたいはずです。
そのため「M&A市場はリーマンショック後にしばらく冷え込み、その後回復した」事実は、売り手企業にも買い手企業にも参考になるはずです。

*2:https://info.finance.yahoo.co.jp/history/?code=998407.O&sy=2008&sm=1&sd=1&ey=2013&em=12&ed=31&tm=m&p=1
*3:https://www.mizuho-ri.co.jp/publication/research/pdf/research/r110901management.pdf

4.東日本大震災のときはどうだったか(2011年ごろを見る)

東日本大震災は2011年3月11日に発生しました。その前後のM&A件数の推移は以下のとおりです。

東日本大震災は、もちろん世界的にはリーマンショックほどの経済危機はもたらしていませんが、それでも日本経済には大きなダメージをもたらしました。
しかし上記のグラフによると、M&A件数はむしろ、2011年以降上昇しています。

(1)震災から5カ月でM&A意欲が高まっている

東日本大震災以降、M&A市場が活況を呈したトレンドは、日本M&Aセンターもとらえています。同社の2011年9月のレポートによると、国内上場企業のM&A意欲は、震災直前は85.5%でしたが、2011年7~8月(震災から4~5カ月後)の調査では96.6%にまで高まりました(*4)。 震災直後こそ74.1%にまで低下しましたが、その後、急にM&A意欲が高まったのです。

(2)被害の遭い方がリーマンショックとは異なる

同じように経済的なダメージを受けながら、なぜ東日本大震災後はM&A意欲が高まり、リーマンショック後はしばらく低下したのでしょうか。
理由の1つは、企業の被害の遭い方でしょう。

日本M&Aセンターの同じレポートによると、東日本大震災で企業が受けた主なダメージは次のとおりです。

  • 顧客や仕入先、外注先の被災:63.9%
  • 営業拠点や店舗の被災:42.3%
  • 材料や部品の不足:40.5%

このようなダメージに対して企業は、前向きに対処しようとするでしょう。例えば「新しい顧客を確保したい」「新しい営業拠点を設けたい」「新しい部品調達先を探したい」と考えるはずです。こうした要望を達成するために、経営者がM&Aを選択しても不思議はありません。

リーマンショックは世界経済を揺るがす事態でした。それで買い手になりうる企業のM&A意欲が年単位で回復しなかったのでしょう。
しかし東日本大震災は、未曽有の大惨事ではありましたが、被害は局地的です。そのため、買い手になりうる企業は、M&Aをしてでも回復を急ごうと考えた、と推測できます。
同レポートでは、震災後に「M&Aを積極的に検討したい」「よい案件があれば検討したい」と答えた企業は92.2%もありました。

*4:https://www.nihon-ma.co.jp/newsrelease/pdf/110907pressrelease.pdf

5.アベノミクスが始まってどうなったか(2013年からを見る)

アベノミクスは実質的に2013年からスタートしました。内閣府は2019年1月に「安倍政権6年間の経済財政政策の成果と課題」という資料を公表し、そのなかで「戦後最長となる景気回復」「過去最大規模のGDPの実現」「過去最高水準の企業収益」「今世紀最高水準の賃金上げ」などと、成果を誇っています(*5)。

政府が成果を誇るのは当然で、一時7,000円台にまで落ち込んだ日経平均は、2018年9月に3.4倍の24,000円台を記録しました(*6)。

(1)M&A件数、前年比15%の増加も

以下の表は、冒頭で紹介した中小企業庁の全企業M&A件数推移グラフを使って、アベノミクス前後のM&A件数の前年比を算出したものです。

<全企業のM&A件数 単位:件>

2008年 2009年 2010年 2011年 2012年 2013年 2014年 2015年 2016年 2017年
件数 2,399 1,957 1,707 1,687 1,848 2,048 2,285 2,428 2,652 3,050
前年同期比 - -18.4% -12.8% -1.2% 9.5% 10.8% 11.6% 6.3% 9.2% 15.0%

アベノミクスが始まった2013年は、前年より10%以上上昇しています。翌年の2014年も11.6%と、上げ幅を広げています。
2015年と2016年の上昇率は1ケタ台になりましたが、2017年は前年比15.0%と急拡大をみせています。
景気拡大は、M&A件数には追い風になることは明白な事実のようです。

*5:https://www5.cao.go.jp/keizai-shimon/kaigi/minutes/2019/0118/shiryo_01.pdf
*6:https://info.finance.yahoo.co.jp/history/?code=998407.O&sy=2017&sm=1&sd=1&ey=2020&em=4&ed=31&tm=m&p=1

6.まとめ~「売りたいとき」「買いたいとき」を探す

買い手企業は、売り手企業が「売りたい」と考えているときに、買いたいと考えるでしょう。
売り手企業は、買い手企業が「買いたい」と思っているときに、売りたいと考えるはずです。

もちろん、M&A戦略は事業戦略に密接に関わるので「売りたいとき」「買いたいとき」だけで売買することはできません。しかし、もし時間的な余裕があれば、M&A件数の動向を見たり、M&A件数の動向を予想したりして、買い時・売り時を見極めたいものです。
経済の大きなうねりが起きるとき、買い時と売り時が大きく変化します。「過去のうねり」を分析することで、買い時・売り時予測の精度は増します。

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